南九州の夏播き栽培に適するネコブセンチュウ増殖抑制エンバク「スナイパー」
要約
夏播き栽培でネコブセンチュウの増殖を抑制するエンバク「スナイパー」は、播種適期より20日程度遅く播種した場合でも年内に出穂する極早生品種で、南九州では他の普及品種と同程度に多収である。
- キーワード:エンバク、夏播き栽培、ネコブセンチュウ、飼料作物育種
- 担当:自給飼料生産・利用・飼料作物品種開発、気候変動対応・暖地病害虫管理
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域、生産環境研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
エンバクの夏播き用極早生品種「スナイパー」は、夏播き栽培でネコブセンチュウの増殖を抑制することが示され(2011年度研究成果情報)、「たちいぶき」と同様に、九州地域で9月上旬から9月下旬の播種でその効果を活用でき、線虫対策と自給飼料生産に同時に対応できる飼料作物品種として、耕畜連携の有効な技術の一つとして考えられる。 そのため、カンショや飼料用エンバクの作付けが多い南九州を中心に、「スナイパー」の生育特性を把握し、早掘りカンショ後作等での「スナイパー」の普及を促進させる。
成果の内容・特徴
- 夏播き栽培における「スナイパー」の乾物収量は、宮崎では播種適期の9月上・中旬播種で「たちいぶき」や九州地域で広く利用されている多収品種「隼」と同程度で、播種が遅れた場合の9月下旬播種で「たちいぶき」より高い(図1、表1)。熊本や千葉では、適期より遅い播種の場合に「たちいぶき」より多収になる傾向である(表1)。
- 播種から出穂始めに至る日数は、「たちいぶき」より平均で2週間以上も短く、「隼」や「韋駄天」より短い(表1)。
- 乾物率は、「たちいぶき」や「隼」より高く、適期に播種した場合にその差が大きい(表1)。
- 倒伏程度は、耐倒伏性品種の「韋駄天」と同程度で、「隼」より小さい傾向である(表1)。
- 適期に播種した場合、粗タンパク質含有率は「たちいぶき」よりやや低く、推定TDN含量は「たちいぶき」と同程度である(表1)。
- 鹿児島県肝付町のカンショ農家圃場における実証栽培試験での乾物収量は、宮崎の試験地と同様に「たちいぶき」や「韋駄天」と同程度か、より高い(図2)。
- 圃場試験において根に形成される卵のう数は、「はえいぶき」や「韋駄天」より少なく、「たちいぶき」と同程度であり、カンショ農家圃場での線虫密度増減率は、九沖農研で実施した場合と比較して品種間に差はないが、「たちいぶき」と同程度である(表2)。ネコブセンチュウの増殖抑制効果は「たちいぶき」と同等である。
普及のための参考情報
- 普及対象:カンショ農家、酪農や肉用牛繁殖経営の農家・法人、コントラクター等の飼料生産組織
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:南九州を中心に関東以西の地域・300ha以上
- その他:2013年から種子の流通が本格的に始まっており、雪印種苗株式会社から入手できる。実証試験を実施したカンショ農家圃場では、カンショ栽培前に殺線虫剤を使用している。
具体的データ
その他
- 中課題名:水田・飼料畑・草地の高度利用を促進する飼料作物品種の育成
- 中課題整理番号:120b0
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2005~2015年度
- 研究担当者:桂真昭、上杉謙太、松岡誠、立石靖、荒川明、小山内光輔(雪印種苗)、小橋健(雪印種苗)、関根平(雪印種苗)、我有満、山下浩、髙井智之、岩堀英晶、松岡秀道、後藤和美、上床修弘、波多野哲也、近藤聡(雪印種苗)、立花正(雪印種苗)、橋爪健(雪印種苗)、佐野善一(雪印種苗)、小槙陽介(雪印種苗)
- 発表論文等:エンバク「スナイパー」品種登録番号23720(2014年2月28日)