周年放牧肥育技術により赤身の多い牛肉を安定して生産できる
要約
離乳後または肥育素牛に周年放牧と同時に高栄養・高蛋白質の補助飼料を飽食させる「周年放牧肥育技術」を24~28ヵ月齢まで適用すると、国産飼料100%で肉質等級2等級の赤身牛肉を生産できる。
- キーワード:周年放牧肥育技術、褐毛和種、黒毛和種、肉質
- 担当:自給飼料生産・利用・周年放牧
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
現在の肉用牛慣行肥育では、牛は畜舎内で多量の輸入穀物飼料と少量の粗飼料によって飼養される。近年、これとは異なり、放牧や粗飼料多給などを用いた肉用牛生産方法や、そこから生産される赤身牛肉への関心が高まっている。また、飼料自給率の向上や耕作放棄地の解消にも配慮した生産方法の開発も求められている。 そこで、本研究では、周年放牧が可能な暖地の低標高地域において、放牧を最大限に活用した新しい肉用牛生産方法「周年放牧肥育技術」を開発した。
成果の内容・特徴
- 1年を通じて放牧に必要な草を維持する草地管理体系は大別して次の2種類である。a)冬牧草であるイタリアンライグラスを基幹草種として、栽培ヒエ等の夏牧草を組み合わせる、春と秋に播種が必要な高栄養管理体系(図1)。b)永年生夏牧草のバヒアグラスに冬牧草のイタリアンライグラスを組み合わせる、秋のみ播種が必要な省力的管理体系(図2)。
- 本技術の実施に際して用意すべき放牧地面積の目安は、牛1頭当たりa)で40a、b)で60a以上であり、a)の方が必要面積は少ないが、作業および必要資材が多い。本技術を導入しようとする農家等は、経営に適した草地管理体系を用いる(図1、図2)。
- 離乳後または肥育素牛から導入した褐毛和種去勢雄牛および黒毛和種去勢雄牛を、a)およびb)の草地管理体系を用いて周年放牧し、高栄養・高蛋白質な補助飼料としてトウモロコシサイレージなどを組み合わせて飽食給与すると、出荷時月齢は24~28ヵ月齢で枝肉重量は褐毛和種で407kg(13頭の平均、388~454kg)および黒毛和種で384kg(5頭の平均、374~398kg)が得られ、肉質等級はすべて2等級となる(表1)。
- 周年放牧肥育牛(褐毛和種去勢雄牛の場合)の枝肉は牛脂肪交雑基準(BMS No.)の値が低く、牛肉色基準(BCS No.)および牛脂肪色基準(BFS No.)の値が高いという特徴を有する(図3)。
普及のための参考情報
- 普及対象:産直組織や飲食店等の販路を持つ繁殖・肥育一貫経営
- 普及予定地域・普及予定面積:暖地の低標高地域に100ha。
- その他:1)草地管理の具体的方法や補助飼料の種類・給与量など本技術の詳細は「周年放牧肥育~実践の手引き~」に記載している。2)放牧牛肉を使ったレシピ集を作成した。3)2014年10月に「九州沖縄地域における放牧・粗飼料多給による赤身牛肉生産振興協議会(略称:九州沖縄放牧肥育振興協議会)」を設立し、本技術の普及活動を継続中である。4)現地実証試験において、実証農家は牛3頭を出荷し、現在は放牧中の妊娠牛7頭から産まれる子牛を放牧肥育する予定である。
具体的データ
その他
- 中課題名:暖地における周年放牧を活用した高付加価値牛肉生産・評価技術の開発
- 中課題整理番号:120d3
- 予算区分:交付金、競争的資金(農食事業)
- 研究期間:2011~2015年度
- 研究担当者:小林良次、中村好德、金子真、林義朗、神谷充、吉川好文、山田明央
- 発表論文等:
1)金子ら(2016)日草誌、61:234-238
2)中村ら(2015)日暖畜報、58(2):261-266
3)PR動画「放牧で作る良質赤身牛肉-肉牛の周年放牧肥育-」
4)農研機構(2016)「周年放牧肥育~実践の手引き~」