イネウンカ類の殺虫剤ピメトロジンに対する感受性検定法
要約
殺虫剤ピメトロジンに対する感受性は、微量局所施用法による次世代幼虫数抑制効果を指標として検定できる。この検定法によってイネウンカ類の半数効果薬量(ED50値)が算出可能になり、イネウンカ類の本殺虫剤の感受性の変動をモニタリングできる。
- キーワード:薬剤抵抗性、トビイロウンカ、セジロウンカ、ヒメトビウンカ、微量局所施用法
- 担当:気候変動対応・暖地病害虫管理
- 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
- 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
- 分類:普及成果情報
背景・ねらい
殺虫剤ピメトロジンは、近年の薬剤抵抗性ウンカ類に対しても密度抑制効果が高く、九州沖縄など西日本地域を中心に苗箱施用薬剤として普及が進んでいる。本剤はウンカ類の飛来源である海外においても使用量が増えていることから、薬剤抵抗性の発達が懸念されており、感受性検定によるモニタリングが必要である。しかし、ピメトロジンはウンカ類に対して吸汁行動と産卵に抑制作用を示すものの、即効的な殺虫効果が不明瞭なため、ウンカ類で標準的な手法である微量局所施用法による半数致死薬量(LD50値、50% lethal dose)が算出できない。そこで、微量局所施用法による次世代幼虫数抑制効果を指標として半数効果薬量(ED50値、50% effective dose)を算出するピメトロジンの感受性検定法を新たに開発する。
成果の内容・特徴
- 通常の微量局所施用法と同様に、羽化後5日以内の長翅雌成虫を炭酸ガスで麻酔し、アセトンに溶かした殺虫剤薬液を微量局所施用装置で1頭あたり0.08μl塗布する(図1)。
- 殺虫剤薬液は5~6濃度の段階で施用し、アセトンのみの対照区も用意する。
- 大型試験管にティッシュペーパーで巻いた播種7日後のイネ芽出しを20本入れ、試験管の底の部分に寒天を溶かして注ぐ(図2)。寒天を入れることで、水中落下による供試虫及び次世代幼虫の死亡を防止できる。
- 施用後に大型試験管に雌5頭と雄3頭(雄は殺虫剤を施用しない)を入れ、25°Cで7日間産卵させる。
- 産卵終了後に成虫を除去して試験管と苗を洗浄し、その8日後に、ふ化幼虫を区毎に計数する。ふ化幼虫を計数する際には、試験管に50~70%エタノールを注入して固定した後に、ガラスシャーレに移して計数する。
- 濃度段階別の薬量(対数変換)とふ化幼虫数(平方根変換)との関係を直線回帰して、対照区の平均ふ化幼虫数の50%が出現する薬量=半数効果薬量(ED50値)を算出する。
- この手法を用いて算出したトビイロウンカのED50値は表1のとおりである。
普及のための参考情報
- 普及対象:国公立機関、大学、企業(農薬開発・普及)の病害虫防除研究者と技術者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本およびイネウンカ類の被害が問題となるアジア地域各国に普及予定である。特にイネウンカ類の飛来源であるベトナム北部等で普及することで、現地における精度の高い薬剤感受性の情報が得られる。得られた情報は、我が国におけるイネウンカ類防除対策の策定、特に薬剤の選定に活用される。
- その他:本感受性検定法の研修会をベトナムの2か所(ベトナム北部地域と南部地域の研究機関)で2015年9月に実施した。日本においては研修会を2016年3月に九州地域で開催する。本感受性検定法のマニュアルについては2016年に公表予定である。
具体的データ

その他
- 中課題名:暖地多発型の侵入・新規発生病害虫の発生予察・管理技術の開発
- 中課題整理番号:210d0
- 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)
- 研究期間:2014~2015年度
- 研究担当者:真田幸代、松村正哉、辻本克彦(シンジェンタ・ジャパン(株))、杉井信次(シンジェンタ・ジャパン(株))
- 発表論文等:
1)Tsujimoto K. et al. (2016) Appl. Entomol. Zool. 51(1):155-160
2)農研機構(2016) 「イネウンカ類の薬剤感受性検定マニュアル」 http://www.naro.affrc.go.jp/karc/contents/tec_manu/index.html (2016年公開予定)