ウシ腟温度変化は黄体状態並びに発情の強さに関連性がある

要約

黒毛和種繁殖雌牛の腟温度は非発情期には黄体退行と共に低下し、黄体機能と関連のある変化を示す。また発情時には上昇し、発情の強さに関連した動きを示す。

  • キーワード:発情検出、腟温、行動、プロジェステロン
  • 担当:家畜生産・繁殖性向上
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、大きな問題となっているウシの受胎率の低下の一因として発情徴候の低下や多頭飼育による発情発見率の低下とそれに伴う人工授精適期の見逃しが考えられている。確実な交配を実施するためには、ウシの発情微弱化要因の解明と確実な発情検出法の開発が急務となっている。そこで、ウシの体温変化による卵巣機能評価方法を開発し、体温変化を指標とした非侵襲的な発情検出の可能性について検討することを目的とする。
機能的黄体の存在を確認した黒毛和種繁殖雌牛の腟に温度データロガーを挿入し、自然発情あるいはホルモン剤投与(クロプロステノール20mg (PG)、 クロプロステノール20mg + 外因性プロジェステロン製剤(CIDR):製剤は6日目に抜去(PG + CIDR))して発情誘起を行った際の体温を連続測定することで、発情前後の体温変化と卵巣状態の関係を明らかにし、体温を用いた発情検出の有効性を評価する。

成果の内容・特徴

  • 非発情期の腟温度はPG投与後8時間目以降に大きく低下し、投与後24~43時間は非発情期の無処置区(day7)より有意に低い値を示す(図1)。一方、外因性プロジェステロンが存在する状態(PG+CIDR)では、PG投与後の体温低下は認められず(図2)、体温はプロジェステロン存在下では高く推移する。
  • 発情開始と共に腟温度は急速に上昇し、発情期間中は発情前と比較し有意に高い値を示す(図3)。
  • ホルモン処理による発情同期化によって、体温は有意に高くなるが(図3)、このことは表1で歩数による発情検出がホルモン処理によって高い値を示すように、同期化により強い発情行動が発現することによると考えられる(表1)。
  • 腟温度(前日比0.3°C以上が3時間以上続いた場合を発情検出)は、ホルモン処理にかかわらず高い発情検出率を示す(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 体温を用いた発情検出手法を開発する上での有用な基礎的知見である。
  • 腟内へ温度計を挿入する際には、腟内に傷等がないことを確認し、挿入前に外陰部ならびに体温計を十分に消毒して、炎症が起こらないように留意する必要がある。
  • 腟内へ温度計を挿入することで、粘液が分泌されることがある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:受精・妊娠機構の解明と調節による雌牛の繁殖性向上技術の開発
  • 中課題整理番号:130b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:阪谷美樹、竹之内直樹、高橋昌志(北大農)
  • 発表論文等:Sakatani M. et. al (2016) J. Reprod. Dev., Doi:org/10.1262/jrd.2015-095