太陽光型植物工場でのイチゴの複合環境制御と多植栽培による10t/10a生産

要約

太陽光型植物工場でのイチゴ促成栽培において、一季成り性の多収品種を用い、光合成に好適な複合環境制御と可動式高設栽培システムによる多植栽培を組み合わせることで、10 t / 10 aの多収生産が達成できる。

  • キーワード:イチゴ、光合成、多収生産、多植栽培、複合環境制御
  • 担当:日本型施設園芸・イチゴ等野菜周年生産
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・園芸研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

わが国のイチゴ生産では、後継者不足等によって生産基盤が弱体化しつつあり、農業法人等を経営主体とした大規模施設生産の普及によるその強化が求められる。そのため、太陽光型植物工場での複合環境制御(光、気温、CO2濃度、湿度等)や多植栽培を可能とする可動式高設栽培システムを組み合わせた安定多収生産技術の開発が急務である。そこで、太陽光型植物工場でのイチゴ栽培において、慣行の2倍以上の収量である10 t / 10 aの多収生産を目標として、一季成り性多収品種の促成栽培で複合環境制御と可動式高設栽培システムを組み合わせた多収生産技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 曇天日における展開第3葉の光合成速度は、補光(光源下の株元から20 cmの高さにおける日積算光量子量が20 mol m-2 d-1以上)によって慣行の2倍以上に上昇し、補光と気温15~27°C、CO2濃度1,000 ppmおよびクラウン温度制御(チューブ内水温を20°Cに制御)を組み合わせた複合環境制御によってさらに上昇する(図1)。
  • 上記の複合環境制御によって、頂果房および一次腋果房の開花が早まり、花数も増加する。さらに、果実の成熟日数が短くなり、5月までの総収穫果数が増加する。また、平均果重も重くなることで、一株あたりの果実収量は慣行の1.5倍に増加する(表1)。
  • 複合環境制御に吊り下げ可動式高設栽培システム(図2b)を組み合わせることで、栽植株数は慣行高設栽培システム(図2a)の1.5倍に増加し、5月までの果実収量は慣行の2倍以上の10 t / 10 aになる(図3a)。また、補光を含まない複合環境制御+多植栽培下においても、7月までの長期どりを行うことで、10 t / 10 aの多収生産が可能である(図3b)。

成果の活用面・留意点

  • 寡日照地域の太陽光型植物工場でのイチゴ促成栽培における多収生産に活用できる。
  • 表1と図3aのデータは、農研機構九州沖縄農業研究センター内の太陽光型植物工場で、一季成り性品種「紅ほっぺ」を2013年9月27日に慣行高設栽培システムまたは吊り下げ可動式高設栽培システムに定植し、2014年5月31日まで栽培した時のもの。慣行高設栽培システムでは、換気温度26°C、暖房温度8°Cで管理し、吊り下げ可動式高設栽培システムでは、補光と複合環境制御を6~18時に実施した。補光には、白色の配光制御型高輝度LED(LLM0312A、スタンレー電気(株))を用いた。
  • 図3bのデータは、一季成り性品種「章姫」を2011年9月16日に慣行高設栽培システムまたは吊り下げ可動式高設栽培システムに定植し、慣行は2012年5月31日まで栽培した時、複合環境+多植(補光なし)は吊り下げ可動式高設栽培システムにおいてパッドアンドファンを稼動させ(設定温度27°C)、2012年7月31日まで栽培した時のもの。
  • 品種によって適正な環境条件は異なる可能性がある。

具体的データ

その他

  • 中課題名:イチゴ等施設野菜の周年多収生産システムの開発
  • 中課題整理番号:141d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:日高功太、壇和弘、三好悠太(九大農)、今村仁、高山智光、北野雅治(九大農)、鮫島國親、沖村誠
  • 発表論文等:Hidaka K. et al. (2016) Environ. Control Biol. 54(2):79-92