放射線による不妊化がイモゾウムシの移動分散・平均生存日数に及ぼす影響

要約

イモゾウムシ根絶事業で放射線により不妊化されたイモゾウムシの移動分散能力は、サツマイモ圃場では正常虫(日当たり0.3m)に比べ10%以上低下する。平均生存日数は正常虫で8日であるが不妊虫では10%程度短くなり、夏では半分以下となる。

  • キーワード:Euscepes postfasciatus、沖縄、拡散方程式、根絶、サツマイモ
  • 担当:気候変動対応・暖地病害虫管理
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・生産環境研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

放射線不妊化法によるイモゾウムシ根絶のための不妊化虫の放虫数決定モデルには、正常虫および不妊化虫の移動分散様式と平均生存日数に関する知見が不可欠である。本根絶事業での放射線による不妊化虫の放飼数を決定し、放飼地点の距離間隔と放飼の時間間隔の最適化を図るため、野外における正常及び不妊化イモゾウムシの放虫後の移動分散様式と生存率を解明する。

成果の内容・特徴

  • サツマイモ圃場におけるイモゾウムシ放虫後の再発見虫数は、正常虫・不妊虫とも漸次減少し、夏季では約1週間後から、それ以外の季節では約2週間後から、不妊虫の発見数が正常虫よりも低下する(図1)。
  • 正常虫・不妊虫の平均日当たり移動距離は、夏季で最長(それぞれ0.36 m/日、0.26 m/日)、冬季で最短(0.07 m/日、0.05 m/日)となり、四季を通じ不妊虫の方が移動距離が短い(表1)。
  • 拡散方程式による正常虫・不妊虫の移動分散の比較から(データ略)、不妊虫の拡散係数が正常虫より四季を通じて小さく、不妊虫の移動分散が正常虫より劣ることが示される(表1)。
  • ワイブル関数により推定された放虫後のイモゾウムシの平均生存日数は、正常虫は四季を通じ8から9日とほぼ変化しない(表1)。一方、不妊虫の平均生存日数は、春と冬では正常虫とほぼ同程度であるが、四季を通じて正常虫より短く、特に夏季では半減する。

成果の活用面・留意点

  • イモゾウムシ根絶事業において冬季に不妊虫を放虫する場合、移動分散距離が著しく低下するので、不妊虫の散布方法を検討する必要がある。
  • 不妊化されたイモゾウムシは、正常虫より生存日数が短くなるため、損失分を考慮した散布虫数を検討する必要がある。
  • イモゾウムシの移動距離は非常に短いので、サツマイモ圃場におけるイモゾウムシの発生は、他圃場もしくは近隣の野外植生からの侵入よりも、当該圃場における残存個体のほうが問題となる可能性がある。
  • 本情報では、移動分散様式および生存日数の雌雄間差については考慮されていない。
  • 本情報におけるイモゾウムシの平均生存日数は、室内での観察結果に比べ著しく短い。その理由は不明であるが、捕食者・環境要因による影響がある可能性がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:暖地多発型の侵入・新規発生病害虫の発生予察・管理技術の開発
  • 中課題整理番号:210d0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2012~2015年度
  • 研究担当者:市瀬克也、岡田吉弘、松村正哉、山下伸夫
  • 発表論文等:Ichinose K. et al. (2016) Agric. For. Entomol. 印刷中