機械収穫適性に優れるエリアンサスの栄養繁殖品種「JEC1」の育成

要約

エリアンサスの栄養繁殖品種「JEC1」は、種子繁殖性の既存品種「JES1」と同等の収量性を示し、「JES1」より品種内の均一性が高い。そのため、「JEC1」の機械収穫効率は「JES1」より高く、バイオマス原料の効率的な生産が可能である。

  • キーワード:バイオマス資源作物、エリアンサス、栄養繁殖品種、均一性、機械収穫
  • 担当:バイオマス利用・資源作物生産
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

二酸化炭素排出量の削減や地域活性化に向けて、草本系資源作物に由来するバイオマスの利活用が重要な役割を果たすと考えられる。エリアンサス(Erianthus arundinaceus、和名:ヨシススキ)は多年生のイネ科植物であり、我が国の暖地および温暖地において生産力が高いため、将来的なバイオマス事業における原料として期待できる。一方で、エリアンサスによる原料生産の実用化には、低コスト生産を可能にするエリアンサスの品種開発が必要となる。これらの背景からわが国初の品種として「JES1」が育成されたが、品種内個体間のばらつきは比較的大きく、機械収穫の場面で個体間のばらつきが作業効率を低下させる要因となる。そこで、品種内個体間のばらつきを抑え、機械収穫効率を改良することを目標に、栄養繁殖で増殖を行う品種を開発する。

成果の内容・特徴

  • 「JEC1」は、立型晩生の「JW4」を母本とし、「JW630」、「KO1」、「KO2」および「KO2立」との自然交配で得られた集団から選抜した栄養繁殖品種である。
  • 九沖農研(熊本)における「JEC1」の出穂始日は、株が確立した2年目では晩生である「JES1」より10日早く、「JEC1」の早晩性は中生に属する(表1)。
  • 九沖農研(熊本)において「JEC1」から採取した小花からの発芽率は9.4%である(表1)。
  • 「JEC1」の草型は中間型であり、やや立型の「JES1」より開張している。(表1、図1)。
  • 「JEC1」の2年目乾物収量は3.16t/10aであり、「JES1」と同程度である(表1)。
  • 栄養繁殖で増殖する「JEC1」の1株あたりの茎数および乾物重の変動係数は、種子で増殖する「JES1」より有意に小さい(表2)。そのため、飼料収穫機(CHAMPION 3000」による「JEC1」の機械収穫効率(9.3 t/hr)は、「JES1」(7.3t/hr)より有意に高い(図2)。

成果の活用面・留意点

  • エリアンサスを主原料として用いるバイオマス事業で利用する。当面はペレットなどの熱利用等に向けた技術開発、実証研究およびパイロット試験等における利用が見込まれる。
  • 種苗は、茎部の植えつけや株分けにより苗を養成し増殖する。将来的に、組織培養を利用した種苗増殖技術が実用化すれば、種苗の増殖効率の向上が可能になる。
  • エリアンサスは、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」(2015年3月)の重点対策外来種に該当するため、栽培に当たっては管理下に置くことで雑草化を防止することとし、危険性が高い小笠原・南西諸島では栽培しない。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:セルロース系バイオマス資源作物の作出と低コスト生産技術の開発
  • 中課題整理番号:220a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(草本バイオ)
  • 研究期間:2009~2015年度
  • 研究担当者:我有満、寺島義文(JIRCAS)、上床修弘、田中正美、杉本明(JIRCAS)、齋藤彰、高井智之、山下浩、桂真昭、波多野哲也、木村貴志、松岡誠、荒川明、加藤直樹
  • 発表論文等:我有ら 「JEC1」品種登録出願(第30535号 2015年10月15日)