豚糞堆肥化処理におけるアンモニア低減細菌Bacillus sp. TAT105の製剤的利用

要約

豚糞の堆肥化処理において、Bacillus sp. TAT105を固形培地で培養後、乾燥した試作微生物製剤を開始時の混合物中で107 CFU/g乾物以上となる量を添加することにより、堆肥化過程でのアンモニア発生が低減される。

  • キーワード:水質汚濁防止法、畜産廃水、リン、亜鉛、銅
  • 担当:バイオマス利用・地域バイオマス利用
  • 代表連絡先:q_info@ml.affrc.go.jp、Tel:096-242-7682
  • 研究所名:九州沖縄農業研究センター・畜産草地研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

堆肥化過程で揮散するアンモニアをアンモニウム資化菌により堆肥中に固定して悪臭の発生を軽減すると同時に、堆肥の窒素成分濃度を高めて資源循環に寄与する。筆者らは豚糞の堆肥化過程で増殖する、高アンモニウム耐性を有するアンモニウム資化能の高い高温性細菌Bacillus sp. TAT105の液体培養物を107 CFU/g乾物程度となる量を添加して豚糞の堆肥化処理でのNH3発生が低減され、堆肥中の窒素量が高まることが確認している(Kuroda et al., 2004)。しかしながら、実際の堆肥化処理での微生物の添加利用においては、乾燥粉末状態の製剤化したものを用いることになるため、製剤としての有効利用条件を確認する必要がある。本研究では、この菌を用いて微生物製剤を試作し、実験室規模の豚糞堆肥化試験(素材として豚糞、オガクズ使用、試料重量約4kg)により利用のための基礎的条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • Bacillus sp. TAT105を固体培地で培養後、乾燥したもの(平均菌数5.3 × 109 CFU/g乾物)を微生物製剤として用いる。堆肥化開始時に豚糞とオガクズの混合物に本製剤を混合物中でTAT105菌数がそれぞれ約105、106、107 CFU/g乾物(添加区1、2、3)となるように添加して7日間堆肥化処理すると、処理期間中のNH3発生濃度が添加区で無添加対照区に比べて低めとなる(図1)。また、堆肥化期間の窒素損失は、添加区3で対照区に比べて平均で約17%低くなる(図2上)。
  • TAT105は1MNH4Clを含む高アンモニウム寒天培地に接種して60°Cで培養することでコロニー形成による菌数計測が可能であり、この培養条件はTAT105またはその近縁種の高温性アンモニウム耐性細菌に高い選択性を有している。この方法を用いて堆肥化試験の試料中菌数を測定すると、開始時に対照区でもTAT105の近縁種と考えられる菌が確認され、堆肥化期間中に全ての区で菌数が増加するが、終了時に添加区3で対照区に比べて菌数が平均で19.2倍高くなる(図2下)。
  • 以上の結果を踏まえ、開始時に混合物中でTAT105菌数が約107 CFU/g乾物となる量の製剤を添加して18日間の豚糞堆肥化処理を行うと、堆肥化期間中のNH3発生濃度が無添加対照区に比べて低めの傾向を示す(図3)。堆肥化期間中の窒素損失は対照区に比べて平均で22%低く、終了時の堆肥中窒素残存量が高くなる。また、終了時の高温性アンモニウム耐性細菌数は対照区に比べて平均で9.6倍高くなる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 本研究で確認したTAT105の有効添加量(開始時の混合物中で107CFU/g乾物以上となる量)は、堆肥化処理でのNH3の発生低減のための本菌の利用の目安として活用できる。
  • 今後、現場での処理形態に準じた堆肥化試験でNH3発生低減を評価する必要がある。

具体的データ

図1

その他

  • 中課題名:地域資源を利用したバイオマス循環利用システムの開発
  • 中課題整理番号:220e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2015年度
  • 研究担当者:黒田和孝、田中章浩、和木美代子、福本泰之、安田知子、中崎清彦(東工大)
  • 発表論文等:Kuroda K. et al. (2015) Biosci. Biotech. Biochem. 79(10):1702-1711