イネ種子の主要なリポキシゲナーゼが欠けた品種の探索とその遺伝解析

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要約

玄米脂質の酸化・古米化への関与が指摘されているイネ種子のリポキシゲナーゼ(LOX)3が欠失した品種Daw Damを見いだした。次にLOX3は単一遺伝子に支配され、欠失性は劣性であることを明らかにした。

  • 担当:農業研究センター・作物生理品質部・米品質評価研究室
  • 連絡先:0298-38-8951
  • 部会名:作物生産
  • 専門:食品品質
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

米を長期間貯蔵した場合に生じる古米臭の発生を防止することは、良質米の安定供給のために解決しなければならない重要な課題の一つである。古米臭発生の主因は、酸化酵素(リポキシゲナーゼ;LOX)等により生じる揮発性物質によるものと考えられている。そこでLOXが欠失した品種を育成し良質米の品質を保持させ、貯蔵性を向上させるために、主要なアイソザイムであるLOX3が欠失した品種のスクリーニングを行うとともに、LOX3欠失性の遺伝的な解析を 行った。

成果の内容・特徴

  • LOX3が欠失したイネ品種のスクリーニングを行ったところ、タイのジャワ型在来品種Daw DamがLOX3含量が極めて減少した品種として見いだされた。そのLOX3含量はコシヒカリの少なくとも10分の1以下であった。Daw Damのヌカ・胚芽画分のLOX酵素活性は測定限界以下であり、DEAEクロマトグラフィーにおいてコシヒカリで存在するLOX3活性の溶出位置に、 Daw DamではLOX活性は認められなかった(図1)。
  • LOX3の欠失性の遺伝解析をDaw Dam/ササニシキ、Daw Dam/細粒穀(Xiligu)等の間の交配で得られた種子について行った。F1種子ではLOX3は存在し、F2種子ではLOX3の有:無の分離比が3:1となり、LOX3遺伝子は単一遺伝子に支配され、欠失型(性)は劣性であることが明らかとなった(表1)。なお、LOX3の有無とモチ・ウルチ性とは独立であった。
  • 以上より、Daw Dam種子では遺伝的にLOX3が欠失しており、この特性は育種的に利用可能と考えられる。

成果の活用面・留意点

LOX3欠失品種として見いだされたDaw Damでは試験管内での脂質の過酸化反応は供試した比較品種と比較し極めて少なかった。従って、脂質の自動酸化の可能性も存在するが、玄米においても脂質の酸化、最終的には古米臭の発生が少ないことが期待される。

具体的データ

図1 DEAEクロマトグラフィーによるイネ種子のLOXの分離

ひょう1 F2種子におけるLOX3有無の分離

その他

  • 研究課題名:リポキシゲナーゼ変異米の特性解明
  • 予算区分 :経常・総合的開発研究(新形質米)
  • 研究期間 :平成6年度(平成4年~6年)
  • 発表論文等:Detection of a new rice variety lacking lipoxygenase-3 by
                      monoclonal antibodies. Japan. j. Breed. 43, 405-409, 1993.
                      モノクローナル抗体を利用したイネ種子・リポキシゲナーゼ3の遺伝
                      分析。育種学雑誌、43別(2)、142、1993。