オオムギマイルドモザイクウイルスの発生とその系統の解明

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要約

縞萎縮病抵抗性オオムギ品種の罹病化に、オオムギマイルドモザイクウイルスの2系統が関与することを見出し、2系統の血清学的および遺伝子レベルでの差異を明らかにした。

  • 担当:農業研究センター・病害虫防除部・ウイルス防除研
  • 連絡先:0298-38-8932
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

オオムギ縞萎縮病は、わが国のムギ類に発生するウイルス病のなかで最も発生が多く、その防除のため抵抗性品種の導入が進められている。しかし、地域によっては導入された抵抗性品種の罹病化が起こったため、その原因の解明が要請された。

成果の内容・特徴

  • 1989年、香川県で抵抗性品種イシュクシラズに初めて縞萎縮病が発生し、さらに山口県でイシュクシラズに加え、別の抵抗性品種きぬゆたか、ミサ トゴールデンにも縞萎縮病が発生した。これらの発病株から、オオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)に近縁のオオムギマイルドモザイクウイルス (BaMMV)がわが国で初めて見出された。
  • 香川と山口では病原性の異なるBaMMV系統─香川系統(Ka1)および山口系統(Na1)が発生し、特定の抵抗性品種の罹病化に関与していることがわかった(第1表)。
  • BaMMVの香川・山口両系統間に血清学的な差があった。吸収処理した抗血清を用いたELISAによって、各々のBaMMV系統を識別できた。
  • BaMMVの香川・山口両系統のRNA-1の3'末端側半分(約4000塩基)の塩基配列を決定し、外被蛋白質遺伝子、RNAポリメ ラーゼ遺伝子の構造を明らかにした。その結果、2系統間では塩基配列の約10%が変異しており、同一ウイルスの系統としては遺伝的にかなり異なることがわ かった(第1図)。

成果の活用面・留意点

  • BaMMVとBaYMVを病徴で識別することは困難で、その診断にはELISA検定が必要である。これまでの調査でBaMMVの発生が確認されたのは、香川、山口の一部の地域に限られるが、他の地域でもその発生に注意する必要がある。
  • 今回のウイルス遺伝子解析の結果は、ウイルス系統の遺伝子診断法の開発、ウイルス遺伝子(例えば外被蛋白質遺伝子)を導入したオオムギ抵抗性育種素材の開発に応用される。

具体的データ

表1 2つの縞萎縮ウイルスによるオオムギ品種の発病の比較

図1 BaMMVの2系統のRNA-1の3'末端側半分の遺伝子構造の比較

その他

  • 研究課題名:オオムギ縞萎縮及びオオムギマイルドモザイクウイルスの系統診断技術
  • 及び抵抗性検定法の開発
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成6年度(平成4~6年)
  • 発表論文等:・Sequence analysis of the 3'-terminal halves of RNA 1 of two
                       strains of barley mild mosaic virus. J. Gen. Virol. (1992), 73,
                        2173-2182.
                     ・オオムギマイルドモザイクウイルスの発生、関東東山病虫研報(1992),
                       39, 33-35.
                      ・特許「オオムギマイルドモザイク遺伝子」(サッポロビールと共同出
                        願、平成4年)