フザリウム菌nit変異菌株の作出と土壌からの選択分離培地の作成

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要約

各種フザリウム菌のnit変異菌株(硝酸塩利用能欠損変異株)を作出した。nit変異菌株を塩素酸カリウムを含む培地で選択的に分離することにより,特定のフザリウム菌の土壌中での動態を追跡することが可能となった。

  • 担当:農業研究センター 病害虫防除部 土壌病害研究室
  • 連絡先:0298-38-8836
  • 部会名:生産環境(病害虫)
  • 専門:作物病害
  • 対象:葉菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

フザリウム菌は,作物に病気を起こす病原性株と病原性をもたない非病原性株とに区分され,さらに病原性株は,侵す作物や品種の違いによって多くの分化型 やレースに別れている。フザリウム菌の選択分離培地はすでに開発されているが,分化型やレースの識別は困難であるため,特定の分化型やレースの動態を追跡 するためには,何らかのマーカーが必要である。塩素酸塩に耐性の変異株であるnit変異菌株は,一般の糸状菌と異なり塩素酸塩を含む培地上でも生育でき る。そこで,フザリウム菌のnit変異菌株を作出し,これをマーカーとして塩素酸塩を含む培地で選択的に分離することを試みた。

成果の内容・特徴

  • 病原性フザリウム菌(Fusarium oxysporum)の10種分化型11菌株および非病原性フザリウム菌2菌株から,塩素酸カリウムを含む培地(MMC培地)上でnit変異菌株を作出した(表1)。
  • nit変異菌株の固体培地上の生育,液体培地中および滅菌土壌中の増殖,ベノミル感受性などの諸性質は,もとの親菌株とほぼ同等であった(図1)。
  • 塩素酸カリウムを含む選択分離培地(MC培地)により,土壌中からnit変異菌株だけを選択的に分離することができた(表2,表3)。

成果の活用面・留意点

  • nit変異菌株とその選択分離培地を用いて,特定のフザリウム菌の土壌中の動態を追跡することができる。
  • nit変異菌株の中には病原性が変異したものが混在するので,マーカーとして用いる場合には病原性を確認する必要がある。
  • nit変異菌株は土壌中で安定であるため,野外への拡散に注意する。

具体的データ

表1 各種フザリウム菌のnit変異菌株の作出

 

図1 ダイコン萎黄病菌のnit変異菌株と野生菌株の滅菌土壌中の増殖の比較

図2 フザリウム菌nit変異菌株の選択分離培地の組成表3 土壌に接種したnit変異菌株の選択分離培地による最分離

その他

  • 研究課題名:主要土壌病原菌の土壌中における動向追跡法
  • 予算区分 :経常・重点基礎
  • 研究期間 :平成6年度(平成2年~6年~9年)
  • 発表論文等:1)nit変異菌株を用いたフザリウム病の発生生態の解明 I.Fusarium
                         oxysporumの各分化型のnit変異菌株の作成,日本植物病理学会報,
                         60巻6号,699-704,1994.
                       2)nit変異菌株を用いたフザリウム病の発生生態の解明 II.Fusarium
                         oxysporumのnit変異菌株の選択分離培地を用いた分離,日本植物
                         病理学会報,60巻6号,705-710,1994.