関東地域における家族経営の複合所得による作目立地と採算性

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

自作農的家族経営の農地、労働力等の生産要素保有状況と経営目標を農(土)地純収益に組み込んだ複合所得概念を構築し、主に関東地域で栽培、飼養されている142作目・類型の複合所得と農地価格利回りを求め、利回り6%以上で十分採算のとれる作目・類型等を明らかにした。

  • 担当:農業研究センター・農業計画部・経営立地研究室
  • 連絡先:0298-38-8422
  • 部会名:経営
  • 専門:経営
  • 対象:一般
  • 分類:研究

背景・ねらい

農村では農地価格が高騰し、農産物の採算はとれないと考えられやすい。しかし、農地の実勢価格には耕作目的農地価格、転用価格、「線引きしない市町村」 や市街化区域等によって著しい格差があり、一様には取り扱えない。どのような農地価格の場合、どの農産物がどの程度の採算性かを明らかにしないと、「採算 がとれない」ことのみが協調され、農業者の生産方向を見失わせ、生産意欲を減退させるおそれがある。

成果の内容・特徴

  • 農地価格は「土地価格化」したと言われる傾向があるが、耕作目的の農地価格は「線引き」をしていない市町村では10a当たり119~198万円 (中田)、「市街化区域・調整区域以外」では289万円に止まっており、300万円未満の農用地面積の占める割合は70%強、転用価格3000万円以上の 面積は約3%程度にすぎない(図1)。また、今後の農地価格の上昇率を重回帰モデルで予測したところ、上昇率はかなり低下する方向にある。
  • 一方、「農産物生産費調査結果」により採算性を検討した結果、農(土)地純収益は主として関東地域の142作目・類型のうち約52%までマイナスだが、マイナスの実勢農地価格は存在しないから、自作農的家族経営にそのまま適用する事は不適当である。
  • そこで自作農的家族経営の生産要素保有状況と経営目標を農地純収益概念に組み込んだ複合所得=生産物総価額-(物財費+労賃+資本利子:年4%)+自給物財評価額+家族労賃+自己資本利子を新しく構築し (図2)、これを算出した結果、複合所得がゼロの作目・類型はなく、その分布は実勢農地価格別の水田面積の分布等と類似しており、自作農的家族経営の作目立地には農地純収益より適合している。
  • この複合所得の農地価格利回り=複合所得÷実勢農地価格を142作目・類型について求めると、実勢農地価格300万円未満の場合、ほとんどの作目・類型は3.5%以上、また作目・類型数は3.5%以上の場合より多少少ないが6%の利回りも期待できる。
  • 都市化がかなり進んだ農地価格700~2000万円の場合でも、キュウリ、ナス、トマト、イチゴ、メロン、ピーマン、夏レタス、春夏ネギ等は6%以上の利回りを実現できる。
  • したがって、採算性の判断基準を複合所得にとれば、表のように実勢農地価格に対する利回りから採算のとれる作目・類型が明らかになる。

成果の活用面・留意点

図1は昭和63~平成4年間の5カ年平均実勢農地価格、複合所得は昭和61~平成2年の5カ年平均値であり、この農地価格および複合所得は毎年変化する。また、この成果は自作地に最も適しているが 図2の農地純収益部分によって労賃・利潤範疇の確立段階に応じた経営に対応できる。

具体的データ

図1 農用地面積割合別の農地価格と転用価格

図2 複合所得の概念図

表 農地価格水準別にみた採算のとれる作目・類型

その他

  • 研究課題名:農村における地域開発の制約条件の解明
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成5~6年度
  • 発表論文等:家族経営における農地純収益の現状と自作農の地代に関する考察
                      (農業経営研究、第32巻、第2号、1994. 9, 日本農業経営学会)