栄養生長期の高温が大豆の生長及び根粒着生・活性に及ぼす影響

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要約

気温と根域温度が共に高温であると,大豆の根粒着生と窒素固定は,著しく阻害される。このため,固定窒素への依存が大きい場合には,個体の生長が顕著に制限される。しかし,気温が高くても根域温度が適度に低ければ,根粒着生,窒素固定,個体の生長は抑制されない。

  • 担当:農業研究センター・作物生理品質部・豆類栽培生理研究室
  • 連絡先:0298-38-8392
  • 部会名:作物生産
  • 専門:栽培
  • 対象:豆類
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,地球の温暖化が懸念されている。根粒菌による固定窒素を利用する大豆にとって,温暖化が根粒に及ぼす影響は,重要な問題である。気温上昇が乾燥を伴わない場合には地温の上昇は大きくないが,伴う場合には地温の上昇も大きいと考えられる。そこで,大豆の根粒着生と活性及び個体の栄養生長に及ぼす高温の影響を,気温と根域の温度に分けて検討した。また,高温による根粒着生の阻害が予想されたので,代表的な大豆品種「エンレイ」とともに,「エンレイ」から作出された突然変異体で,極めて多量の根粒を着生する大豆系統「En6500」を供試した。

成果の内容・特徴

  • 気温と根域温度が共に高い場合(昼35/夜30°C),「エンレイ」・「En6500」両系統の根粒着生量(図1)と窒素固定能(図2)は著しく低下する。根粒超多量着生系統「En6500」の根粒着生量と個体当たり窒素固定能は,高温条件下でも「エンレイ」よりまさるが,高温によるこれらの抑制程度には大きな系統間差はない。
  • 気温と根域温度が共に高いことによる栄養生長の抑制は,個体当たり窒素固定能の抑制に比べれば小さい(図3)。これは窒素固定の低下する高温下でも,無機窒素(施肥窒素)を利用できるためと考えられる。ただし,無機窒素が乏しく(NO3- 0.5mol m-3)固定窒素への依存が大きい場合には,生育が進むにしたがって高温による生長抑制が顕著になる。
  • 気温が高くても,根域の温度が適当(昼28/夜23~31.5/26.5°C)であれば,「エンレイ」・「En6500」の両系統とも,根粒着生(図4),窒素固定(図5)は阻害されず,個体の生長(図6)も抑制されない。
  • 以上,気温が上昇しても,地温が気温ほど高くならない場合には,根粒着生や窒素固定に及ぼす影響は比較的小さいと考えられる。しかし,気温上昇に伴い地温が高くなる場合には,根粒着生や窒素固定が顕著に抑制されるので,大豆の生長を確保するためには十分な地力窒素や施肥窒素が必要になると考えられる。

成果の活用面・留意点

  • この実験は温度単独の影響を検討するために,水耕栽培で行った。気温上昇が土壌乾燥を伴う場合には,水ストレスにより根粒の着生・活性等の抑制が強まることに留意する必要がある。
  • 根粒着生・窒素固定を抑制する具体的な温度は,根粒菌の菌株によっても異なると考えられる。

具体的データ

図1:個体当たり根粒重(気温と根域温度が同じ場合)
図1:個体当たり根粒重(気温と根域温度が同じ場合)

 

図2:個体当たり窒素固定能(気温と根域温度が同じ場合)
図2:個体当たり窒素固定能(気温と根域温度が同じ場合)

 

図3:個体当たり全乾物重(気温と根域温度が同じ場合)
図3:個体当たり全乾物重(気温と根域温度が同じ場合)

 

図4:個体当たり根粒重(気温と根域温度が異なる場合を含む)
図4:個体当たり根粒重(気温と根域温度が異なる場合を含む)

 

図5:個体当たり窒素固定能(気温と根域温度が異なる場合を含む)
図5:個体当たり窒素固定能(気温と根域温度が異なる場合を含む)

 

図6:個体当たり全乾物重(気温と根域温度が異なる場合を含む)
図6:個体当たり全乾物重(気温と根域温度が異なる場合を含む)

 

その他

  • 研究課題名:環境変化が大豆の生育,各種生理機能に及ぼす影響の解明
  • 予算区分 :一般別枠研究(地球環境)
  • 研究期間 :平成8年度(平成2~8年)