小麦の品質特性の成因解明に有用なモチ性突然変異系統の作出とその特性
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要約
小麦関東107号の種子をメタンスルホン酸エチル(EMS)で処理し,その M2 から 2 粒のモチ性突然変異体を見いだした。後代の検定によりモチ性が固定していることを確認し,「K107Wx1」および「K107Wx2」と命名した。胚乳澱粉中のアミロース含量は 0.9%で,ワキシー蛋白質は認められなかった。
- 担当:農業研究センター・作物生理品質部・流通利用研究室
- 連絡先:0298-38-8868
- 部会名:作物生産
- 専門:食品品質
- 対象:小麦
- 分類:研究
背景・ねらい
アミロース含量が小麦粉および小麦澱粉の品質特性に与える影響は,アミロース含量以外の形質の状態が同等である複数の品種系統を用い,それらの材料から調製した小麦粉あるいは澱粉の特性を比較することにより解析できる。アミロース含量と胚乳澱粉に結合する 3 種類のワキシー蛋白質の組成とが関係することが知られていたため,ワキシー蛋白質のうち Wx-D1 蛋白質のみをもつ関東107号に突然変異を誘発させれば,比較的容易にモチ性系統が得られ,アミロース含量の影響を解明するための優れた研究材料として利用できる。
成果の内容・特徴
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関東107号の乾燥種子約 2,000粒 を 0.5% EMS/7%エタノール200mlに4時間浸漬し,水洗後,バーミキュライトに播種して生育させ M2種子を得,その胚乳の切片をヨウ素/ヨウ化カリウム溶液で染色して,赤褐色に染色される 2 個体を獲得した(表1)。
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これらの M2 種子を播種して得た M3種子は全て赤褐色に染色され,次代の M4種子も赤褐色に染まったため,モチ性は固定されていると判断し,これら二つの系統を「K107Wx1」および「K107Wx2」と命名した(表1)。これらは,パンコムギにおける最初のモチ性突然変異系統である。
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M3植物10個体を圃場で生育させた結果,関東107号と比べ,これらの系統の稈長,穂長,草型,穎色および粒色は同等であるが,出穂期は 2-5日遅く,K107Wx2の千粒重は小さい(表2)。
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M3種子の胚乳澱粉のアミロース含量は 0.9%である。示差走査熱量計を用いて澱粉の熱的特性を測定した結果,アミロース・脂質複合体の融解に由来する吸熱ピークは認められない。
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M4種子の胚乳澱粉から蛋白質を抽出し,電気泳動法によってワキシー蛋白質の有無を調べた結果,胚乳澱粉にはワキシー蛋白質は認められない。
成果の活用面・留意点
遺伝的背景が親品種と大きくは異ならないと期待できるため,品質特性の成因解明のための研究材料として有用である。
具体的データ
表1:モチ性突然変異系統の作出経過
表2:モチ性突然変異系統の特性(M3 世代)
その他
- 研究課題名:麦類澱粉の化学構造の変動要因の解明
- 予算区分 :経常
- 研究期間 :平成 8 年度(平成 8 ~ 12 年度)