水稲無病化種子「玄米人工被膜種子」の製造とその活用法

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要約

イネの重要病害であるいもち病、ばか苗病、もみ枯細菌病等の種子伝染性病害の根絶を目的とし、無病化種子として、玄米を人工資材で二重被覆した「玄米人工被膜種子」を開発した。本種子の利用により種子消毒の削除、農薬使用量低減が可能となる。

  • 担当:農業研究センター・病害虫防除部・水田病害研究室
  • 連絡先:0298-38-8940
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:稲類
  • 分類:普及

背景・ねらい

近年、イネにおいて種子伝染性病害の発生が増加し、その種子汚染はさらに拡大しつつあり、農薬低投入、低コスト・高精度防除技術の確立が求められている。そこで、いもち病を始めとする種子伝染性病害の根本的な防除技術確立のため、病原菌潜在部位のもみ殻を除去した玄米の種子化による無病種子生産技術を確立する。 また、玄米の吸水、発芽速度が極めて早い特性を生かした無病種子利用法を確立する。

成果の内容・特徴

  • 病原菌潜在部位:種子として調整された種もみでの種子伝染性病原菌は主にもみ殻に存在し、玄米では無~極少である。
    玄米残存病原菌は脱ぷ時にもみ殻から付着したものである。
  • 玄米表面の除菌:病原菌汚染程度の高い種もみを用いる場合、脱ぷ後、玄米表面の流水による1時間~1晩の洗浄、種子消毒剤の低濃度液(もみ使用濃度の2~5倍希釈)浸漬、50~55°Cの温湯浸漬10分で除菌、殺菌ができる。
  • 玄米人工被膜種子作成法:種もみを摩擦式もみすり機で玄米とした。播種後玄米の腐敗を防止するため、玄米表面を固着剤としての一次被膜剤と粉体の二次被膜剤で二重被覆し、半人工の無病種子とした。この無病種子を「玄米人工被膜種子」と呼ぶ(図1)。
    一次被膜剤は水溶性ポリアクリル樹脂及びカルボキシルセルロースナトリウム(CMC)、二次被膜剤は粉末活性炭及びタルク(含水珪酸マグネシウム)である。二次被膜剤の玄米への固着性は水溶性ポリアクリル樹脂がやや優る。
  • 防除効果:玄米人工被膜種子の利用により、ばか苗病、いもち病、苗立枯細菌病の発病は玄米の除菌無処理でも無~激減する。
    50°Cの温湯に10分間浸漬、流水1時間洗浄、オキソリニック酸・プロクロラズ水和剤の低濃度液(40~100倍)10分浸漬等の玄米除菌処理で防除効果はさらに高まり、発病は無~極少となる(図2、図3 、図4)。
  • 生育促進効果:16°C~18°Cの低温下での出芽、苗立ち期間はもみ播種区に比べ格段に早期化される。
    通常環境では苗立率は劣る場合が多く、もみ播種区の60~80%台である。
  • 本玄米人工被膜種子の実用化により、種子消毒及び浸種等の作業の削除、本田での防除回数の大幅削減が可能となる。
    また、寒冷地での苗の生育促進効果が期待できる。

成果の活用面・留意点

  • 種子として調整され、塩水選が行われた種もみでは玄米の除菌処理は不要である。
  • もみに比較し苗立率が劣る場合が多いので、播種量は乾もみ換算で箱当たり180g~200gとする。
    苗は根の発育がやや劣る場合が多いが、移植後の生育はもみ播種区と同等~やや優り、収量も同等である。
  • 種子伝染性病害防除には極めて効果が高いことから、採種圃での実用化が望まれる。
  • 玄米に対し、現在登録のある種子消毒剤はない。

具体的データ

図1:玄米人工被膜種子作成法
図1:玄米人工被膜種子作成法

 

図2:玄米被膜種子のばか苗病防除効果(コシヒカリ罹病種子)
図2:玄米被膜種子のばか苗病防除効果(コシヒカリ罹病種子)

 

図3:玄米被膜種子の葉いもち防除効果(キヌヒカリ)
図3:玄米被膜種子の葉いもち防除効果(キヌヒカリ)

 

図4:玄米被膜種子の苗立枯細菌病の防除効果
図4:玄米被膜種子の苗立枯細菌病の防除効果

 

その他

  • 研究課題名:イネ種子の無病化技術の開発
  • 予算区分 :総合的開発「次世代稲作」、地域総合
  • 研究期間 :平成8年度(平成7年~9年)