為替レートの変動が国内食料品価格の形成に及ぼす影響

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要約

為替レートの変動が国内食料品価格に及ぼした影響を産業連関分析によって計測すると、1990~95年間において、畜産部門では円高メリットが大きく発生し価格引下げの一因となった。食品工業部門では総じて円高メリットが大きく発生したものの、飼料、と畜部門を除き、必ずしも価格引下げには結びつかなかった。

  • 担当:農業研究センター・農業計画部・流通システム研究室
  • 連絡先:0298-38-8851
  • 部会名:経営
  • 専門:経営
  • 対象:
  • 分類:行政

背景・ねらい

急激な為替レートの変動等が国内の食料供給システムに及ぼす影響について、マクロの視点から農漁業・食品産業・その他産業の経済的相互依存関係に着目し、産業連関分析の手法を用いて定量的に把握した。

成果の内容・特徴

加工分析に必要なパソコン用プログラムの開発、分析用産業連関表の作成を行うとともに、1985年から1995年までの11年間を対象に、「均衡価格モデル」を応用して、国内物価の変動を海外要因、為替変動、その他要因(国内需給など)の3つの要因に寄与度分解し、円相場の変動や海外市況変動が国内の食料品価格形成に及ぼす経済的影響を定量的に明らかにした。以下、1990~95年間についての分析結果を示す。

  • 円相場は1990年の145円/$から1995年には94円/$にまで急騰したが、生産者価格への影響は、耕種農業部門は為替変動、海外市況の影響とも比較的小さかった。一方、輸入飼料への依存度の高い畜産部門は、とうもろこしの国際価格が若干上昇したものの、円高メリットを反映して9%の生産者価格の低下となった(図1)。
  • 食品工業部門については、輸入食料原材料への依存度の高い飼料・有機質肥料、砂糖・油脂・調味料類、と畜、畜産食料品などの部門において円高メリットが大きく発生した。しかし、畜産食料品、めん・パン・菓子類、農産保存食料品、その他の食料品の各部門では国内要因による価格引上げ効果が為替要因による価格引下げ効果を上回ったことから生産者価格は上昇した(図1)。
  • 農林水産業に投入される資材供給産業は、海外要因が4%のコストアップとなったものの、為替要因により11%の円高メリットが発生し、また、国内要因がほぼ0%となったことから、生産者価格は7%の低下となり、農林水産業の交易条件の改善に寄与した(図1)。
  • 消費者価格への影響は、円高メリットは食料品消費者価格に対して2%の物価引下げ効果を有していた。しかし、海外市況や国内需給の要因が円高メリットを超えて物価引上げに働いたことから、現実の消費者価格は6%の上昇となった(図2)。
    注:生産者価格(消費者価格)変化率=「海外要因」+「為替要因」+「国内要因」
    この場合、生産者価格(消費者価格)変化率は国内卸売物価(消費者物価)指数の実勢値、「海外要因」は為替変動なかりせばの輸入の影響、「為替要因」は為替変動がコスト面から国内生産者価格に及ぼす影響(円高差益または円安差損に相当)、「国内要因」はその他の残差を表す。

成果の活用面・留意点

1985年以降の急激な円高が国内食料品価格形成に及ぼす影響を定量的、実証的に分析することによって、価格形成要因を客観的に明らかにすることができた。なお、本分析は輸入物価の変化がコスト面から国内物価に転嫁された場合の影響を示したものであることに留意する必要がある。

具体的データ

図1:生産者価格変化率の要因別寄与度分解
図1:生産者価格変化率の要因別寄与度分解

 

図2:消費者価格変化率の要因別寄与度分解
図2:消費者価格変化率の要因別寄与度分解

 

その他

  • 研究課題名:為替変動等の経済環境の変化が食料供給システムに及ぼす影響
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成8年度(平成8年~10年)