水田に発生するイネ科多年生雑草の葉による検索とシハロホップブチル剤への反応

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要約

水田でのイネ科多年生雑草は,エゾノサヤヌカグサとキシュウスズメノヒエの他,アシカキやハイコヌカグサなど約10種にのぼり,しばしば「ヨバイヅル」と総称される。生育期の葉身と葉鞘の形態により種を判定する検索表を作成した。除草剤シハロホップブチル乳剤は茎切片から再生したキシュウスズメノヒエに効果を示すがアシカキには効果を示さない。

  • 担当:農業研究センター・耕地利用部・水田雑草研究室
  • 連絡先:0298-38-8953
  • 部会名:作物生産
  • 専門:雑草
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年,水田において匍匐性のイネ科多年生雑草が増加傾向にある。これまでは関東地方北部以西でのキシュウスズメノヒエと北海道,東北地方でのエゾノサヤヌカグサがよく知られ,水田に発生する匍匐性イネ科多年生雑草は,しばしば十分な検討なしにこれらにあてられて来た。このため,「ヨバイヅル(ヤベヅル,ヨベヅル)」という地方名で呼ばれるイネ科多年生雑草の種の特定は困難であった。イネ科多年生雑草の水田における実態把握と制御技術の確立のために,穂のない状態での簡易で正確な同定法と除草剤に対する反応の差異に関する基礎的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • イネ科多年生雑草の種類:現地での確認と全国での情報を総合した結果,水田に発生するイネ科多年生雑草としては,キシュウスズメノヒエ(Paspalum distichum L., チクゴスズメノヒエ P. distichum L. var. indutum Shinners)とエゾノサヤヌカグサ(Leersia oryzoides Sw.)の他に,アシカキ(Leersia japonica Makino),サヤヌカグサ(L. sayanuka Ohwi),ハイコヌカグサ( Agrostis stolonifera L.),ウキガヤ(Glyceria depauperta Ohwi),ムツオレグサ(G. acutiflora Torr.)がある。また,ギョウギシバ(Cynodon dactylon Pers.),チゴザサ(Isachne globosa O.Kuntze),ドジョウツナギ(G. ischyroneura Steud.)は,通常は畦畔や水路に発生するものの,時には水田内に侵入する。これらは,しばしば「ヨバイヅル」と総称される。

    また,マコモ(Zizania latifolia Turcz.)やヨシ(Phragmites communis Trin.)も時に水田内に侵入するが,はっきりした形態的特徴を有するので,「ヨバイヅル」には含まれない。

  • 葉身と葉鞘による検索表: 雑草防除上で重要な移植から7月にかけてのイネの生育期には,上記のイネ科多年生雑草のほとんどが出穂前で,イネ科植物の同定に必要な穂や小穂を得られない。そこで,上記10種1変種について,各地から採集した材料の観察結果に既往の知見を加えて,生育期の葉身と葉鞘の形質に基づく検索表を作成した(図1,表1)。
  • キシュウスズメノヒエとアシカキに対するシハロホップブチル剤の効果:雑草ヒエとイネに高度の選択性を有する除草剤シハロホップブチル乳剤はキシュウスズメノヒエに効果のあることが知られている。同剤は,茎切片から再生して3~7葉期に達したキシュウスズメノヒエには卓効を示すが,アシカキには効果を示さない(図2)。

成果の活用面・留意点

  • イネ科多年生雑草の水田での発生状況の把握や防除試験の精度向上に活用される。
  • 乾燥した材料では葉耳の着色などの特徴が判然としなくなるので,生葉を用いる。また,穂を得られる場合には穂や小穂の形態に基づいて正確な同定を行う。
  • 各種除草剤に対する感受性の種による差異は今後個別に確認を要する。

具体的データ

図1:水田に発生するイネ科多年生雑草の葉身・葉鞘の形態
図1:水田に発生するイネ科多年生雑草の葉身・葉鞘の形態

図2:シハロホップブチル剤のキシュウスズメノヒエとアシカキに対する効果

表1:水田に発生するイネ科多年生雑草の葉身・葉鞘形態に基づく検索表

その他

  • 研究課題名:イネ科多年生雑草の水田への侵入・定着条件の解明
  • 予算区分:経常一部受託
  • 試験期間:平成9年度(平成9年~11年)