畑土壌中の硝酸態窒素濃度の低下に及ぼす有機化・脱窒の寄与と諸要因の関係

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要約

畑土壌中の硝酸態窒素の有機化と脱窒の二つの微生物過程が各種要因から受ける影響を重窒素トレーサー法とアセチレン阻害法を同時に用いて明らかにした。両過程への硝酸態窒素フローは麦わら添加により大きく促進されたが、各々への分配比は水分条件により著しく異なることを定量的に示した。

  • 担当:農業研究センター・土壌肥料部・畑土壌肥料研究室
  • 連絡先:0298-38-8828
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌肥料
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景・ねらい

近年、農耕地からの硝酸態窒素の環境負荷が問題となっているが、土壌からの硝酸態窒素の消失に係わる微生物過程としては有機化と脱窒がある。しかし、この両者の起こる時期や場所、或いは環境条件との関係について定量的な知見が不足しているために、農耕地周辺水系への窒素負荷量の推定や土壌の環境容量の評価等が未だに満足すべき精度で行われていない。そこで、畑土壌(淡色黒ボク土)において特に重要と思われるいくつかの要因について、上記2過程への硝酸態窒素のフローに及ぼす影響を解析した。

成果の内容・特徴

  • 畑土壌(淡色黒ボク土)中の硝酸態窒素の消失に関与する有機化と脱窒の二つの微生物過程について、それらが添加有機物、酸素、アンモニア態窒素等の有無や水分条件から受ける影響を土壌に添加した15N-NO3-の経時的な変化とアセチレン阻害法を同時に用いて明らかにした。
  • 土壌の水分条件の硝酸態窒素有機化・脱窒に及ぼす影響を好気的気相条件下、25°Cで4日間インキャヘ ゙ーション行って調べた結果、最大容水量の60%(含水率38%)程度までは脱窒量は非常に少なく無視できたが、それより含水率が高くなるにつれ特に麦わら添加条件下で脱窒速度が急激に増加した。一方、硝酸態窒素の有機化は水分条件の影響をそれほど大きく受けなかった。(図1)
  • 好気的気相条件、25°C、含水率38%で各種有機物の硝酸態窒素有機化を促進する効果を調べた結果、腐熟化の進んだ堆肥ではほとんど効果が認められなかったが、麦わらでは顕著に認められた。また、麦わらと同時にアンモニア態窒素を添加した場合には、硝酸態窒素の有機化速度は低下したが、完全に抑制されることはなかった。(図2、表1)
  • 麦わら添加土壌では、好気的(空気)条件下に比べ嫌気的(He気相)条件下における硝酸態窒素有機化速度が1/4程度に低下した。また、嫌気的条件下の脱窒速度は好気的条件下の有機化速度の約3倍の値となった。(表2)

成果の活用面・留意点

  • 好気的条件下にある土壌に麦わらと水を添加した場合、脱窒が活発に起こるまで若干の遅延時間があるが、硝酸態窒素の有機化は添加直後から始まるので、硝酸態窒素の両過程への分配割合は培養時間や土壌の硝酸態窒素含有量等によって異なる。
  • 本成果のNO3--N有機化速度は重窒素同位体希釈法等を用いて求めたgrossの速度である。

具体的データ

図1:土壌の含水率と硝酸態窒素有機化量・脱窒量との関係

図2:有機物添加土壌の硝酸態窒素の経時的変化

表1:有機物添加がNO3-の有機化に及ぼす影響

表2:気相条件、添加15Nの形態等が有機化、脱窒に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:畑地における養分フローの予測モデルの開発
  • 予算区分:一般別枠(物質循環)
  • 研究期間:平成9年度(平成4~10年)