イネいもち病菌は菌糸融合によって病原性変異レースを発生させる
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要約
イネいもち病菌は菌糸融合によって遺伝的組換えを行い、2つの母菌の病原性を併せ持った変異レースを発生させる。変異レースは単核、単相でその病原性は安しており、胞子形成、病斑長、圃場における病勢進展は母菌の中間を示す。
- 担当:北陸農業試験場・水田利用部・病害研究室
- 連絡先:0255-26-3242
- 部会名:生産環境
- 専門:作物病害
- 対象:稲類
- 分類:研究
背景・ねらい
いもち病防除法として同質遺伝子系統が、活用されている。菌糸融合による遺伝的組換えは、複数のレースの病原性を併せ持つスーパーレースを出現させ、同質遺伝子系統の発病抑制効果を低下させる懸念がある。そこでイネいもち病菌において菌糸融合による病原性変異の有無を確認するとともに、菌糸融合によって生じる変異菌の病原性の安定性、感染力、圃場での発病を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 異なる薬剤耐性遺伝子をもち、かつ病原性も異なる2つのいもち病菌:ビアラフォス耐性菌(レース102)、ブラストサイジンS耐性菌(レース136)を混合培養すると、両菌株の薬剤耐性遺伝子を併せ持つ変異菌が出現する(図1)。変異菌の中には両菌株のそれぞれと同じ病原性をもつ菌株や両菌株の病原性を併せ持つ菌株(レース136.4)がある。このことから、いもち病菌は菌糸融合によって遺伝的組換えを起こし、幅広い病原性を持つレースを出現させる可能性がある。
- 菌糸融合によって遺伝的組換えをおこした変異菌はDAPI染色によって母菌と同じく単核、単相であることが確認される。
- 変異菌の病原性は、イネへの接種を繰り返し行っても変わらず、安定している。
- イネに接種したときの変異菌の病斑長、胞子形成数は2つの母菌の中間型を示す(表1)。
- 変異菌を接種した苗を圃場の中央に植え込んだ時の発病伸展程度は、両母菌の中間型を示す(図2)。
成果の活用面・留意点
- 同質遺伝子系統の混植にあたっては、菌糸融合による変異菌が出現しないように、できるだけ菌密度を低下させる混植の方法を考える必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:菌糸融合によるいもち病菌の病原性変異・増殖機構の解明 混植圃における病原性変異菌の動態と増殖支配要因の解明
- 予算区分 :次世代稲作
- 研究期間 :平成10年度(平成7~9年、10~12年)
- 発表論文等:
イネいもち病菌における準有性的組み換えの確認、日植病報64巻、4号、369頁、1998.(講要)
Evidence of Parasexual Recombination of Magnaporthe grisea. 2nd International Rice Blast Conference,1998.