地球環境変化が日本の降積雪に及ぼす影響

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要約

地球環境変化に対する日本の降積雪状況の変動を推定する手法を開発した。局地気候シナリオに基づく推定結果では,100年後に総降雪深は北海道と本州山岳地域以外で減少し,最深積雪は全国的に減少する。北陸地方以南の日本海側平野部では積雪が生じなくなる。

  • 担当:北陸農業試験場・水田利用部・気象資源研究室
  • 連絡先:0255-26-3234
  • 部会名:生産環境
  • 専門:農業気象
  • 分類:研究

背景・ねらい

降積雪は,冬季の農業生産の環境にはもちろんのこと,水資源,除排雪など地域社会に,さらに生態系にも大きな影響を及ぼしている。地球環境が変化した際の降積雪状況を明らかにすることによって,これらの問題が将来どうなるかを考える上での重要な知見が得られる。

成果の内容・特徴

  • 地球環境変化シナリオから日本の降積雪状況の変動を推定する手法を開発した。シナリオの月平均気温と月降水量から,まず経験的モデルによって月降水量のうち雪として降る量(降雪相当水量)を予測し,それを月降雪深に変換する。次いで,得られた降雪深と気温から統計的に最深積雪と積雪の堆積環境(雪質)とを予測する。
  • 入力データとして日本全土を東西・南北およそ10km毎に区切ったデータ形式の「局地気候シナリオ」を用い,同形式で降雪深、最深積雪、雪質の変動を現在から100年後まで10年ごとに推定した。このシナリオでは,気温上昇は50年後以降に顕著になり,100年後には1月の全国平均で4.4°C上昇する。全国平均の降水量は1割以内の増減を繰り返し,一定の変化傾向はないとされている。
  • 100年後,総降雪深(12月から3月までの降雪深の合計)は,北海道と本州山岳地域以外では減少した(図1)。
    また最深積雪は全国的に減少した。山岳地域を除く東北地方では,降雪深と最深積雪が減少し,雪質が乾き雪から湿り雪に変化するという大きな変動が生じた。北陸地方以南の日本海側平野部では,気温上昇によって雪が降らなくなり,積雪も生じなくなった。これらの特徴は50年後以降に特に顕著となった。
  • 降雪水量(降雪相当水量に面積を乗じた値)の北海道と本州以南それぞれの合計を計算したところ,北海道では変化がなかったのに対し,本州以南では大きく減少した(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 降積雪の水資源,電力源,冷熱源などとしてのプラスの面,農林業への影響や雪崩などの災害,住宅や道路の除排雪といったマイナス面,さらに生態系,水循環,気候への影響などの将来を考える際の重要な知見として活用できる。
  • 入力に用いた「局地気候シナリオ」は、大気中の二酸化炭素濃度が年率1パーセントで複利的に増加するという条件で計算された気象庁気象研究所の数値実験結果を基にして、農業環境技術研究所が作成したデータである。

具体的データ

図1.総降雪深の変化

 

図2.降雪水量の推移。それぞれの地域の、12月から3月の合計。

 

その他

  • 研究課題名:降積雪の変動予測技術の開発
  • 予算区分:一般別枠(地球環境)
  • 研究期間:平成10年度(平成2年~8年)
  • 発表論文等:地球環境変化時における降積雪の変動予測,雪氷,60巻5号,1998