経営規模や年齢によって異なる水稲作家族経営における法人化の目的と効果
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要約
水稲作の1戸1法人経営における法人化の目的や効果は,経営規模や経営者年齢の階層ごとに異なる。全階層において,経営者の意識改革,労働条件の明確化など,経営内部に対する効果に比べて,対外信用や資金調達など経営外部に対する効果への評価は低い。
- 担当:北陸農業試験場・総合研究部・農業経営研究室
- 連絡先:0255-26-3231
- 部会名:営農・作業技術
- 専門:経営
- 対象:水稲
- 分類:指導
背景・ねらい
北陸地域において増加傾向にある水稲作家族経営の法人は多様な実態をもつ。しかし家族経営の法人化に期待される目的と効果は,画一的に示されるに留まっている。アンケート調査より,水稲作1戸1法人32経営を,経営規模,経営者年齢の階層ごとに特徴を整理し,家族経営の法人化の目的と効果を検討した。
成果の内容・特徴
- 階層別に見た水稲作家族経営における法人化の特徴(図1)。
①法人化の目的…面積増加につれて外部に対する項目(労働力確保など)を重視する一方,年齢が上がるにつれて内部に対する項目(経営意欲など)を重視している。 ②法人化の効果…面積増加とともに外部に対する項目へ移る。年齢面では規模ほど明瞭な傾向はないが,経営者が40~54歳において「事業展開(に有利)」と評価している。 ③運営上の重視点…規模で11ha以上,経営者年齢が54歳以下が,今後,特に「発展性」を重視する一方,10ha以下,55歳以上では「(組織内の)雰囲気」など組織内部の整備を重視している。 ④法人化に対する総合評価…規模で11~20ha層,年齢で40~54歳層,55歳以上層で高く,従来の経営努力の結実と今後の経営発展の基礎として満足感が高い。
- 家族経営法人化の効果に対する評価(表1)。
総じて,法人化の経営内部に対する効果(経営管理の明確化,意識改革など)が評価されるのに対して,経営外部に対する効果(対外信用,資金調達など)は評価が高くない。 ①経営管理の明確化…全階層で評価される。しかし一方で,事務処理の負担も増加する。 ②経営者の意識改革…全階層で評価されるが,大規模層ではすでに解決済みであるためか低い。 ③労働条件の明確化…雇用導入(大規模層),役割分担の明確化(小規模層)などから,全階層で評価は高い。特に高年齢層で役割分担の明確化が評価される。 ④構成員の意識改革…規模面では特に小~中規模層,年齢面では高年齢層において評価が高い。 ⑤節税対策…課税所得1千万円,売上3千万円(面積で10数ha)を越える規模より,節税となる可能性が高いが,同一規模,売上でも節税に対する評価はケースバイケースである。 ⑥対外信用力の向上…目的では中~大規模,若~中年齢層で多いが,効果の積極的評価は少ない。 ⑦経営の継続性…後継者確保(高年齢層),家族外からの継承者確保(若~中年齢層)として評価あり。
成果の活用面・留意点
- 家族経営の法人化検討の際,その目的や効果をより細かく示す情報として活用できる。
- 法人化の目的や効果には法人ごとの独自性が軽視できない。また信用など対外的な効果が現れるには,一定の時間が必要と考えられる。機械的な適用には注意を要する。
具体的データ


その他
- 研究課題名:家族経営の法人化の意義と運営方式の解明
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成10年度(平成7~10年度)
- 発表論文等:「水稲を基幹とする1戸1法人経営の現状と課題」,地域農林経済学会報告論文集 第5号(1997年3月)。