植物の細胞核内でのヒストンアセチル化領域を立体的に可視化する

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要約

主要な核蛋白質の一つであるヒストンがアセチル化されている領域を,オオムギの分裂期染色体においてレーザー共焦点顕微鏡を利用して,細胞および染色体の形状を保ったまま三次元的に可視化・解析することができる。細胞周期の時期によってアセチル化領域は動的変化を示すことがわかり,FISH法と組合わせることでアセチル化領域のDNA配列が同定できる。

  • 担当:北陸農業試験場・地域基盤研究部・稲育種工学研究室
  • 連絡先:0255-26-3238
  • 部会名:生物工学
  • 専門:バイテク
  • 対象:六条大麦・水稲
  • 分類:研究 

背景・ねらい

現在遺伝子組換え技術が急速に進歩し,有用な品種の開発が進んでいるが,一方では導入遺伝子の発現については不明な点もあり,今後外来有用遺伝子や内在性の遺伝子の発現を安定かつ正確に制御する技術を確立する必要がある。 細胞内において遺伝子はヒストン八量体に巻き付いた状態で存在しており,ヒストンの構造変化により影響を受けることが知られている。特にヒストンH4のアセチル化は染色体の高次構造形成のみならず遺伝子発現にも深く関与しているとされている。したがって,遺伝子発現の正確な制御のためには,特定の遺伝子のアセチル化の状態を細胞核や染色体上にて詳細に明らかにする必要がある。このため細胞の立体的形状をできるだけ保った状態での三次元的解析技術の確立を,オオムギおよびイネを材料に,リボゾームDNA並びに動原体特異的DNAなどいくつかの反復DNA配列を用いて行なう。

成果の内容・特徴

  • レーザー共焦点顕微鏡を利用して,オオムギおよびイネにおけるヒストンH4のアセチル化領域を三次元的に可視化できる。オオムギにおいては,分裂間期も含めた細胞分裂期のステージによる動的な変化をとらえられる(図1)。
  • 顕微鏡で撮像した画像を用いて蛍光強度を三次元的に画像解析するプログラムを開発したので,アセチル化の強度を定量的に評価できる(図2)。
  • 蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法との組合わせにより,オオムギでは反復DNA配列の染色体上における位置と,その領域のアセチル化との対応を検証することが可能となる。

成果の活用面・留意点

  • 本技術は,反復配列以外の遺伝子におけるアセチル化の状態の解析に活用できる。
  • 本技術は,染色体の大小にかかわらず,広範な作物に適用できる。

その他

  • 研究課題名:核内におけるヒストンH4アセチル化領域の経時的三次元解析
  • 予算区分:科学振興調整費.総合研究
  • 研究期間:10年度(平成8~10年)
  • 発表論文等:Wako, T., M. Fukuda, R. Furushima-Shimogawara, N. D. Belyaev, B. M. Turner and K. Fukui (1998) Comparative analysis of the topographical distribution of acetylated histone H4 using confocal microscopy and a deconvolution system. Anal. Chim. Acta 365:9-17.Wako, T., R. Shimogawara, B. M. Turner and  K. Fukui (1998) Dynamics of histone acetylation during a cell cycle in barley., The 12th Plant Biotechnology Symposium, Yongin, KOREA, pp120 Wako, T., M. Fukuda, R. Shimogawara, N. D. Belyaev, B. M. Turner and K. Fukui (1998) Histone acetylation changes dynamically in barley mitotic cell. The 18th International Congress of Genetics, Beijing, CHINA, pp20.
    若生俊行・下河原(古島)理江子・福田美千代・福井希一 (1998) オオムギ根端分裂細胞の核および染色体における特定領域に対応したヒストンアセチル化の動態,第71回生化学会,947頁