酪農経営における天井クレーン型堆肥化施設の導入条件と投資限界額
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要約
線形計画モデル分析によると、酪農経営における天井クレーン型堆肥化施設の導入条件は、酪農所得1千万円以上等を前提とすると、乳量8千kg/経産牛の場合、堆肥販売可能、経営面積5ha以上、乳代95円/kg以上が必要となる。また、期待所得1千万円控除後所得全額を堆肥化施設導入引き当て可能とした場合の投資限界額は、経営面積7ha、経産牛飼養122頭、個体乳量8千kg、乳代90円の経営では3.8千万円である。
- 担当:農業研究センター・経営管理部・畜産経営研究室
- 連絡先:0298-38-8875
- 部会名:経営
- 専門:経営
- 対象:酪農
- 分類:普及
背景・ねらい
草地試験場が開発し、普及の緒についた天井クレーン型堆肥化施設について、線形計画モデル分析を通して酪農経営における導入条件と投資限界額を明らかにした
成果の内容・特徴
- 当該施設導入経営を素材として、堆肥化施設未導入と(1)天井クレーン型堆肥化施設導入(2)の2つの線形計画モデルを構築し、各経営面積・経産牛
1頭当たり乳量・1kg当たり乳代水準の下での経営収益最大化における両モデルの所得額の比較を通して、酪農経営における当該施設の導入条件を、2モデル分析から当該施設への投資限界額を明らかにした。
- モデルの主な前提条件は、(ア)1では年間家畜排泄物量22トン/経産牛、飼料畑への糞尿還元限界量18トン/10a(前記排泄物量と都府県の1頭当たり経営面積より設定)、2では年間堆肥製造量14トン/経産牛、うち60%を敷料及び水分調整資材として戻し利用、40%を圃場或いは販売仕向けとし、飼料
畑への還元限界量は6トン/10a(飼料作物施用基準より設定)、(イ)糞尿、堆肥の経営外への供給は2モデルのみで、堆肥販売価格は2千円/トン。
- 当該施設を導入した場合、堆肥化施設未導入に比較して飼養頭数は増加するが、増頭による収益増加額が当該施設導入に伴う償却費負担額を上回るケースが多くなるのは、乳量8千kg以上、乳代85円以上の場合である(表1)。
酪農経営における当該施設導入の条件を堆肥化施設未導入に比較して所得向上、且つ1千万円以上の所得確保とすれば、乳量8千kgの場合、堆肥の販売に加え、経営面積5ha以上で、乳代95円以上(10haの場合は90円以上)が必要となる。
- 2モデルの経営収益最大化の計算結果に基づいて算出した当該施設償却費未控除の所得から期待所得として1千万円を控除した全額を堆肥化施設導入への引き当て可能額として、資本回収期間法(回収期間10年、利率3.5%)により酪農経営における堆肥化施設への投資限界額を計測すると、堆肥販売可能な場合でも、乳量7.5千kg以下、乳代90円以下で、経産牛飼養頭数100頭以下では、投資負担力はない(表2)。乳量が8千kgで経産牛122頭飼養(経営面積7ha)の場合は、乳代が90円であれば3.8千万円まで負担が可能である。
成果の活用面・留意点
- この情報は概ね都府県酪農を対象としたもので、都府県における平均の経産牛飼養頭数26.1頭・経産牛当たり乳量7.1トン・1戸当たり経営耕地面積4.6ha・1kg当たり乳代90.4円を考慮すると、当該施設の普及には補助金等の援助策が必要であることが示唆される。
- 当該施設導入経営における施設投資額は処置能力150頭規模で5.5千万円程度である。なお、導入条件における所得算出で用いた各条件下での堆肥化施設の償却費は表1の注2による。
具体的データ

表1:酪農経営における乳量・乳代・経営面積別にみた堆肥施設導入に伴う経産牛増頭及び所得向上効果

表2:酪農経営における乳量・乳代・経営面積別にみた所得最大化の経産牛飼養頭数とその場合の堆肥化施設への投資限界額
その他
- 研究課題名:家畜排泄物の処理・利用システムの経営的評価と適用条件の解明
- 予算区分 :総合的開発研究(家畜排泄物)
- 研究期間 :平成10年度(平成6~11年度)