畑圃場におけるプレファレンシャルフローのモデル化

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要約

土壌浸透水が粗大孔隙等を通過する際に生じるプレファレンシャルフローは、仮想混合槽の数と圃場容水量に対する可動水の割合で特徴づける完全混合槽 列改変モデルで表されることを明らかにした。本モデルは、土壌表面に散布した非反応性のトレーサの浸透水中濃度と積算浸透水量を情報として必要とする。

  • 担当:農業研究センター・土壌肥料部・水質保全研究室
  • 連絡先:0298-38-8829
  • 部会名:総合農業・生産環境,関東東海・生産環境,農業環境・資源特性
  • 専門:環境保全,土壌
  • 対象:
  • 分類:研究

背景・ねらい

公共用水域及び地下水の硝酸性窒素が新たに環境基準に追加され、畑地においても硝酸性窒素の溶脱量を低減することが求められている。亀裂等の発達した土壌 ではプレファレンシャルフロー(バイパス流等の不均一な土壌浸透水流の総称)が生じやすいために、硝酸性窒素の溶脱が加速されることが指摘されてきた。し かし、適切なモデルがないために発生したプレファレンシャルフローを数量的に表すことは難しい。そこで、広範な流動状況を表現できる完全混合槽列モデル を、非定常で不動水領域の存在する土壌システムに適用・改変し、プレファレンシャルフローのモデル化を試みた。

成果の内容・特徴

  • 本モデルでは、1)土壌水分が圃場容水量となった時に浸透水が生じる、2)圃場容水量に対する可動水の割合[fm (-)]は変化しない、3)降水はトレーサを含まない、との仮定のもとに、非定常な土壌システム内の滞留時間を正規化時間{τ (無次元),積算浸透水量(L m-2)を目的深までの土層内の重力排水後水分保持量[V(L m-2)]で除したもの}として表現した(図1)。 土壌システムを n 個の仮想完全混合槽に分割した場合、トレーサの滞留時間分布関数{E,土壌表面にパルスとして散布した非反応性のトレーサの目的深における濃度[Cn (mg L-1)]にVを乗じて、散布量[M (mg m-2)]で除したもの}として以下の式を得た。

    [1]

    ここでΓはガンマ関数。 nの変化により土壌浸透水の様々な流動状況の表現が可能である(図2)。 n=1は完全混合を、n=∞はピストンフローを示す。またfmは、 fm=1のグラフを横軸方向にfm倍、縦軸方向に1/ fm倍拡大させる効果を持つ。
  • [1]式で表されるグラフの極大値[Mfm,n (τmax, Emax)]は以下の式で表現できる。

    [2]

    この関係(図3)から、測定で得られる最大値に適合するnとfm を決定することができる。
  • 亀裂の発達した土壌モノリスに非反応性のトレーサとしてBr-を散布した実験結果に本モデルを適用したところ、発生したプレファレンシャルフローをnとfm で表現できた(図4)。

成果の活用面・留意点

本モデルの活用により、異なる実験で生じたプレファレンシャルフローを比較することができる。今後は土壌特性や降雨条件がパラメータに及ぼす影響を検討す る必要がある。また、本モデルと化学反応モデルを組み合わせることにより、プレファレンシャルフローの優位な土壌での環境影響物質の動態予測が可能にな る。

具体的データ

図1:完全混合槽列改変モデルの概念図
図1:完全混合槽列改変モデルの概念図

 

図2:完全混合槽列改変モデルにおけるパラメータnの感度解析注)図中のシンボルは極大値
図2:完全混合槽列改変モデルにおけるパラメータnの感度解析注)図中のシンボルは極大値

 

図3:極大値を利用したパラメータの決定
図3:極大値を利用したパラメータの決定

 

図4:モノリスライシメータから流出したBr-濃度を用いた解析例注)図中のシンボルは実測値、線は計算値土壌:Fuluventic Eutrochrept;φ298mm;長さ500mm 降水量:540mm;試験期間:7月22日~1月25日
図4:モノリスライシメータから流出したBr-濃度を用いた解析例注)図中のシンボルは実測値、線は計算値土壌:Fuluventic Eutrochrept;φ298mm;長さ500mm 降水量:540mm;試験期間:7月22日~1月25日

 

その他

  • 研究課題名:農村地域の水環境保全のための流域管理法
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成11年度(平成9~14年)