ホウレンソウ中のシュウ酸集積の生理的意義

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要約

ホウレンソウに安定同位体トレーサ-13CO2,15NO3-を同時供与し、同一時期の硝酸還元量とシュウ酸生成量のバランスを解析した両者には高い相関があり、ホウレンソウにおいてシュウ酸は硝酸還元に伴う細胞のアルカリ化の中和作用を持つとの考えを支持する。

  • 担当:農業研究センター・土壌肥料部・栄養診断研究室
  • 連絡先:0298-38-8814
  • 部会名:生産環境
  • 専門:肥料
  • 対象:葉菜類
  • 分類:研究

背景・ねらい

ホウレンソウ中のアク成分であるシュウ酸集積の制御は作物の高品質化において不可欠である。これまでに、アンモニア培地で生育したホウレンソウは硝酸培地 でよりもシュウ酸の生成が少ないことが示されており、ホウレンソウのシュウ酸集積の生理的意義は硝酸還元に伴う液胞のアルカリ化の中和作用と考えた。しか し、シュウ酸生成と硝酸還元を直接定量的に解析した事例は無い。そこで、安定同位体トレーサ-13CO2と15NO3-を同時に供与して同一時間の硝酸還 元量とシュウ酸生成量のバランスを解析した。

成果の内容・特徴

  • ガスクロマトグラフー燃焼-同位体比質量分析計(GC/C/IRMS)を用いたシュウ酸の炭素同位体比の分析法を確立した.本法は従来の方法(ANCA- MS)に比べ,目的成分の単離と精製を必要としないので、ホウレンソウ抽出液の酸性画分の誘導体化処理だけで分析が可能である(図1)。シュウ酸標品を用いた本法とANCA-MS法との回帰直線はy=0.991x+0.004, r2=0.9999と極めて近似した(13C:1.10~2.85atom%)。
  • ホウレンソウの酸性画分全体では一般の有機酸は速やかに取込んだ新規固定炭素が短時間で他の画分へ代謝・移動していくのに比べ,シュウ酸は分解され難く、 蓄積する。また、有機酸・シュウ酸の炭素の代謝には新規固定分子と蓄積された分子が同時に利用されるが、その比率は葉柄で新規固定分子の利用率が最も高い (図2)。
  • 15N窒素還元量と13Cシュウ酸生成量は,同時期の硝酸還元量とシュウ酸生成量を反映する。両者は高い相関を示す(図3)ことからシュウ酸生成は硝酸還元と密接な関係が有り、硝酸還元に伴う細胞のアルカリ化をシュウ酸の生成で中和するとの考えを支持する。

成果の活用面・留意点

  • 硝酸還元反応には主に新規吸収窒素が利用されるが、有機酸代謝では蓄積性の炭素も使われるのでシュウ酸生成における新規固定炭素の利用率は低くなり、図3のバランスは当量に比較するとシュウ酸がみかけ上不足する。
  • 安定同位体トレーサーとGC/C/IRMSの組み合わせは、他の植物代謝成分の解析に応用できる。

具体的データ

図1:試料調製法 図1:試料調製法

 

図2:酸性画分とシュウ酸の経時的13C取込み活性
図2:酸性画分とシュウ酸の経時的13C取込み活性

 

図3: ホウレンソウ(個体)における13C-シュウ酸生成量と15N-硝酸還元量 のバランス
図3: ホウレンソウ(個体)における13C-シュウ酸生成量と15N-硝酸還元量 のバランス

 

図4: 硝酸還元-シュウ酸生成反応モデル
図4: 硝酸還元-シュウ酸生成反応モデル

 

その他

  • 研究課題名:作物の生育・品質と関連する機能性物質の代謝および組成の解析
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成11年度(平成11~14年)