生体構成物質のAFM(原子間力顕微鏡)による粘弾性計測

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要約

AFMにより,微小な生体構成物質の粘弾性を計測するための計測手法である。マイクロカンチレバーのバネ定数を高精度に計測し,探針と試料との相互作用を適切にモデル化することにより,試料の微小領域の粘弾性を定量計測できる。

  • 担当:農業研究センター・機械作業部・水田作機械化研究室
  • 連絡先:0298-38-8812
  • 部会名:作業技術
  • 専門:機械
  • 対象:
  • 分類:研究

背景・ねらい

AFM(原子間力顕微鏡)は,探針と試料表面間の原子尺度領域で働く力の大きさを,その先に探針を付けたカンチレバーのたわみ,あるいはその共鳴振動数の ずれから計測するものであり,生体試料の表面の物理状態を高分解能で計測することが可能である。これまで,AFMの応用として,カンチレバーを振動させる ことによって探針を周期的に試料に押しつけ,試料からの反力の大きさと位相とを解析することにより,試料の動的粘弾性が計測できるとされているが,実際に は試料表面と探針との間の相互作用が複雑であるため,定量的計測は困難であった。これを解決するために,試料に変形を与えるためのマイクロカンチレバーの バネ定数を正確に求め,試料表面と探針の振動系の適切なモデル化を図る。

成果の内容・特徴

  • AFM用マイクロカンチレバーの微小応力計測装置を開発し(図1),これまで公称値のみに頼っていたために,30%以上誤差のある場合もあったが,3%程度の誤差でマイクロカンチレバーのバネ定数を求めることができるようになった。
  • これまでの,試料台を上下に振動させながら探針によって走査を行い,探針の振幅を計測するモデルでは,定性的な計測は行うことができたが,定量計測はできない(図2)。AFMを用い,探針を振動させて試料を変形させた時の探針と試料との振動系をモデル化し(図3), マイクロカンチレバーを試料に押しつけて,その支持部をZ1*で振動させると,探針は試料の粘弾性に応じてP*の反力を受け,Z2*で振動する。この振動 と支持部の振動との間には位相差が生じるので,この位相差と探針の振動を計測することにより,試料の貯蔵弾性率と損失弾性率を計算できる。
  • 局所領域の粘弾性データと,2次元で計測した相対的粘弾性情報から,粘弾性の定量的な面分布情報を得ることができる(図4)。

成果の活用面・留意点

  • DNA・糖類・タンパク等,生物由来の分子を用いた膜や線材を微小機械の素材として活用したり,細胞膜等の粘弾性計測による診断に活用できる。
  • 異なる試料間での粘弾性の比較が可能となるため,例えば籾の胴割れのしやすさと粘弾性の関係等,微小領域における物性研究への応用が可能となる。
  • 得られる粘弾性情報には周波数依存性があるため,試料間の比較を行う場合には同一の周波数を使用すべきである。

具体的データ

図1 マイクロカンチレバーのバネ定数計測装置
図1 マイクロカンチレバーのバネ定数計測装置

 

図2 定性的計測のモデル Z1: 試料台の振幅 Z2: 試料の変形による探針の振幅
図2 定性的計測のモデル Z1: 試料台の振幅 Z2: 試料の変形による探針の振幅

 

図3 測定系の模式図とモデル化
図3 測定系の模式図とモデル化

 

図4 BSA/NaClの凹凸像(左)と貯蔵弾性率像(右)
図4 BSA/NaClの凹凸像(左)と貯蔵弾性率像(右)

 

その他

  • 研究課題名:バルク状生体構成物質の物性計測手法の開発
  • 予算区分 :パイオニア特別研究(バイオマイクロマシン)
  • 研究期間 :平成11年度(平成8~11年)