農林地が持つ洪水防止機能の経済的評価
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要約
農林地が持つ洪水防止機能に焦点を当て、その公益的価値を推計する計測モデルを構築した。利根川流域において、1986年の大水害をもたらした台風(前
線)を想定した場合、1999~2004年に消滅すると予測された水田面積1ha(森林面積では4haに相当)当たりの洪水防止機能の経済的価値は147
万円程度になると予測された。
- 担当:農業研究センター・農業計画部・土地利用研究室
- 連絡先:0298-38-8427
- 部会名:経営
- 専門:農村計画
- 対象:
- 分類:行政
背景・ねらい
農林業はその生産物の販売という市場に現れる経済的価値以外に、洪水防止、水資源涵養、土壌浸食防止、生態系保持等の地域資源・環境への金銭的に直接評価することが困難なプラス面を同時に持っている。そこで、関東平野を流れる河川を対象に、流域内の農林地が持つ洪水防止機能に焦点を当てたモデルを構築し、農林業の公益的価値の計測を行う。
成果の内容・特徴
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利根川、那珂川、荒川の3河川で得られた計測モデルを
表1
に
示す。なおモデルは、ロジッステック式を片対数式に変換して得たln[Dft/(Wt-Dft)]=β0+β1Pt/Lt-β2Et
を用いた。ここで、Dftはt年次の洪水量ftによって発生する水害被害額、Wtはt年次に流域内において可能性として想定しうる最大の水害被害額、Pt
はアメダスデータから算出した降水量得点(最大値=174.0、最小値=76.2)、Ltは農林地による洪水防止効果であり、富岡の論文(「農業経済研
究」第63巻第1号)を参考に、Lt=水田面積+森林面積/4とした、Etはダム・堤防建設による洪水防止効果、β0は定数、β1、β2は係数である。
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利根川流域において、
表2
に示す前提条件のもと、対象年次を1999~2004年として予測水害被害額を推計した。予測結果を
図1
に示すが、今後、ダム・堤防の建設がこれまでと同水準で進められたとしても、襲来する台風(前線)によっては、甚大な被害(例えば1986年の降水量得点P86では879億~1,008億円の被害額)が流域内に及ぶ可能性がある。
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表2
に
示す前提条件のもと、利根川流域において1999~2004年に消滅すると予測された水田面積1ha(森林面積では4haに相当)当たりの洪水防止機能の
経済的価値は、1986年のような大水害をもたらす降水量得点(P86=153.3)のもとで146.7万円、1991年の比較的降雨量が多かった年次の
降水量得点(P91=141.1)のもとでは90.6万円、1995年のような決して高いとはいえない降水量得点(P95=107.5)のもとでも8.7
万円、という金額が予測された。
成果の活用面・留意点
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アメダスデータの制約から、モデル推計に使用したデータは1976~1995年の20年分にとどまっている。そのため、本成果の計測結果は、この限られた推計期間で得られたモデルと
表2
のような単純化された前提条件から求められている点に留意する必要がある。
- 水資源涵養、土壌浸食防止、生態系保持等も考慮すれば、農林業の公益的価値は、本成果の計測結果以上の値になることに注意を要する。
具体的データ

表1:モデルの計測結果(計測期間:1976~1995年)

表2:利根川における水害被害額予測の前提条件

図1:水害被害額の推計値と予測値
その他
- 研究課題名:都市近郊農業地帯河川流域における経済的評価
- 予算区分 :貿易と環境(開発研究)
- 研究期間 :平成11年度(平成8~12年)