易還元性遊離鉄抽出による転換畑土壌の畑地化程度の評価

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要約

pH3.0の1M酢酸ナトリウム溶液で抽出される鉄含量を測定することで、転換畑土壌の遊離鉄の還元されやすさを定量化できる。この方法により畑地化の進行によるリン酸収着能および土壌構造の安定性の変化等を評価することができる。

  • 担当:北陸農業試験場・水田利用部・土壌管理研究室
  • 連絡先:0255-26-3244
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌
  • 対象:分類:研究

背景・ねらい

土壌中の遊離鉄の酸化・結晶化の程度は土壌構造の安定化(土壌の物理的性質)およびリンやケイ酸収着量等(土壌の化学的性質)に影響をあたえる重要な因子である。転換畑土壌では遊離鉄の酸化・結晶化が徐々に進行するが、この反応は一様に進行するものではなく、酸化還元をくり返しながら徐々に全体が酸化・結晶化されていく。従って酸化・結晶化と反対の過程である遊離鉄の還元されやすさを知ることで、畑地化による土壌の物理性・化学性の変化の程度を推定できる。従来低結晶性の遊離鉄の抽出法として用いられてきた酸性シュウ酸塩抽出法では転換畑の非常に結晶性の低い画分を評価できないため、本成果ではさらに結晶性の低い遊離鉄を推定し畑地化程度を評価する手法を提案する。

成果の内容・特徴

  • 以下の操作で抽出される鉄の量(単位は×10-6kg kg-1)を易還元性指数とする。すなわち、土壌を1g(乾土換算)に対し、pH3.0に調整した1M酢酸ナトリウム溶液を100ml加え、室温(20~25°C)で120分振とうする。振とう後、ろ液中の鉄含量を比色法または原子吸光法で測定する。
  • 測定に用いる土壌は風乾土壌および湿潤土のいずれでも構わない(図1)。つまり遊離鉄の急激な酸化は易還元性指数に影響を与えない。また風乾後1年間室内に保存した試料を用いても指数に変化はない(図省略)。
  • 易還元性指数は畑転換後の年数が経るに従い減少し、土壌を湛水培養した際の鉄の還元量と同じ傾向を示す(図2)。これは指数によって短期間で容易に還元される遊離鉄の割合を推定できることを意味する。
  • 易還元性指数と水中沈定容積に基づく畑地化指数(土壌構造の安定性の指標)、リン酸保持量の間には相関関係がある(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本評価法は従来の畑地化評価法と異なり、土壌の化学性に主眼をおいた手法である。転換畑において特異収着をおこすイオンの挙動、遊離鉄がセメント物質として働く土壌構造の安定性の変化の指標として利用できる。
  • 抽出量は抽出時間および温度の影響を受ける点を留意する。

具体的データ

図1.湿潤土と風乾土を用いた場合の易還元性指数の比較図2.転換後年数が異なる土壌の易還元性指数と湛水培養後の2価鉄含量の関係

 

図3.易還元性指数とリン収着量および畑値化指数の関係

その他

  • 研究課題名:土壌中の鉄成分の存在形態が重粘土汎用水田の力学特性におよぼす影響の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成8~10年度
  • 発表論文等:Takahashi et al. (1999) Ferric iron transformation in irrigated rice-upland crops' rotation soils and
                      its effects on soil tillage properties, Soil Sci. Plant Nutri., 45, 163-174.