合成開口レーダ干渉法で求めた水蒸気水平分布

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

基礎的な水蒸気解析のために、合成開口レーダ差分干渉法と気象データを用いて、積算された大気中水蒸気の水平分布を求める手法を開発した。

  • 担当:農業研究センター・研究情報部・情報解析研究室(中央農業総合研究センター・農業情報研究部・営農情報システム研究室)
  • 連絡先: 0298-38-7176
  • 部会名: 情報研究
  • 専門: 情報処理
  • 分類: 研究

背景・ねらい

水蒸気(湿度)の水平分布は、これまで疎な観測点での観測値(湿度計や高層気象観測、GPS観測など)であった。ところが近年衛星リモートセンシン グの一手法である、合成開口レーダ差分干渉法(差分干渉SAR)で"衛星の方向に積算された水蒸気の水平分布"を求める手法が開発された。この手法は衛星 軌道が正確なヨーロッパの衛星を使ったものであったため、軌道情報の精度が高くない日本の衛星ふよう一号へ適用する場合、詳細な気象学的検討を伴った軌道 推定が必要であった。そこで本研究では水蒸気水平分布を求めるために、気象データを用いた差分干渉SAR解析を行う。

成果の内容・特徴

  • 差分干渉SARで得られる水蒸気水平分布は、2観測日の衛星データを干渉させることから、2観測日の差となる。また水蒸気分布はレーダ観測に用いるマイク ロ波の電波伝搬遅延の分布図(大気遅延分布)に現れるため、衛星方向への大気中の水蒸気の積分値が得られる。したがって夏季などの湿って暖かい時期の観測 と秋などの乾燥して寒い時期の観測から大気遅延分布図を作成すると、主に湿った時期の水蒸気分布の特徴を得ることができる。
  • 人工衛星の回帰間隔は44日で、1回の観測は瞬時に終わるため、水蒸気分布の時間変動は捉えられない。
  • .ふよう一号の精密な衛星軌道推定手法を明らかにした。これにより2観測日の衛星間距離が約10cmの高い精度で決定できる。
  • 正確な衛星軌道を用いて求めた大気遅延分布図を高層気象データから求めた大気遅延と比較した結果、本手法は大気遅延の高度依存性をよく説明することができる(図1,図2)。また大気遅延の大部分は水蒸気による湿潤大気遅延である。従って図1が水蒸気分布といえ、1周期が遅延量11.8cm、可降水量17.6mmの水蒸気量に相当する。
  • 風による特異的な水蒸気分布を気象数値モデルを用いた数値実験により再現することができる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 水蒸気分布は気象数値モデルの精度検証に役立てられる。
  • 本成果で得られた水蒸気の基礎的知識は、病害解析などの農業応用の基盤となる。
  • 衛星の方向は天頂から約35度傾いた方向である.

具体的データ

図1:軌道推定後の大気遅延分布図ペア930820-931116.1周期は大気遅延11.8cmに相当する.箱根山北東に山岳波による振動が見られる.
図1:軌道推定後の大気遅延分布図ペア930820-931116.1周期は大気遅延11.8cmに相当する.箱根山北東に山岳波による振動が見られる.

 

図2:2観測日間の大気遅延量の差と標高の関係高層気象データを基に大気遅延を計算した。図は富士山で1.2周期の遅延を意味している.図1の結果は富士山で2周期の遅延であった。また水蒸気成分がほぼ全体を占めている.大気密度成分は小さい.
図2:2観測日間の大気遅延量の差と標高の関係高層気象データを基に大気遅延を計算した。図は富士山で1.2周期の遅延を意味している.図1の結果は富士山で2周期の遅延であった。また水蒸気成分がほぼ全体を占めている.大気密度成分は小さい.

 

図3:A) 気象数値実験の結果 B) 差分干渉SARの大気遅延分布図風によるローカルな大気遅延分布が再現されている.暗い領域が周りと比べて乾燥した領域である.
図3:A) 気象数値実験の結果 B) 差分干渉SARの大気遅延分布図風によるローカルな大気遅延分布が再現されている.暗い領域が周りと比べて乾燥した領域である.

 

その他

  • 研究課題名:SARへの応用、気象数値実験の農業応用
  • 予算区分:経常、科学技術振興調整費総合研究
  • 研究期間:平成12年度(平成9年~12年)