澱粉の粘度安定性に優れた新規もち性小麦系統「小麦中間母本農8号」

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要約

「小麦中間母本農8号」(旧系統名:谷系A6599-4)はWx-D1座の遺伝子が変異したもち性突然変異系統(アミロース含量1.6%)であり、その澱粉は粘度安定性に優れる。

  • 担当:農業研究センター・作物開発部・小麦育種研究室(作物研究所・麦類研究部・小麦育種研究室)
  • 連絡先: 0298-38-8861
  • 部会名: 作物生産
  • 専門: 育種
  • 対象: 麦類
  • 分類: 研究

背景・ねらい

澱粉質食品の食感は澱粉の特性に負うところが大きく、食感改良のためにしばしばもち性澱粉が添加される。もち性澱粉としては専らワキシーコーンス ターチが利用されているが、澱粉粒の構造が弱く、粘度安定性に欠けるため、用途によってはリン酸塩等を用いた架橋反応によって人工的に粘度安定性を付与し ている。しかし、突然変異により作出された小麦中間本農8号は、粘度安定性に優れた天然のもち性澱粉を供給する系統である。

成果の内容・特徴

  • 小麦中間母本農8号は、低アミロース系統谷系A6099のアジ化ナトリウム処理により作出した、もち性突然変異系統である。澱粉中のアミロース含量は1.6%で、アミロースフリーのもち性小麦谷系H1881の0.4%より若干高い。
  • 澱粉粘度のラピッドビスコアナライザーによる測定で、谷系H1881は最高粘度に到達すると直ちに粘度下降に転じシャープなピークを描くのに対し、 農8号は粘度下降が緩やかでブロードなピークとなり、 もち性澱粉としては特異な粘度安定性を示す(図1)。
  • 遺伝解析の結果から、農8号のもち性はWx-D1座の遺伝子変異によるものであり、また同じ遺伝子の作用で粘度安定性が獲得されたと推定される (表1、 図2)。
  • 穂型は“紡錘状"でふ色は“黄"であり、稈長は“やや短"である。播性は“2"で出穂期・成熟期ともに“中"である。収量は農林61号と比較してやや多収である。原麦粒の見かけの品質は“中中"で、千粒重は“やや小"である。 粉の白さと明るさは“低"である。(表2)

成果の活用面・留意点

交配母本として利用できるが、3種類のWx遺伝子がすべて発現する一般的な小麦との交配では、F2での農8号型の出現頻度が1/64と低いことを考慮して選抜する。

具体的データ

 

図1:ラピッドビスコアナライザーによる澱粉粘度特性
図1:ラピッドビスコアナライザーによる澱粉粘度特性

 

図2:関東118号×農8号のDH2世代における澱粉粘度特性
図2:関東118号×農8号のDH2世代における澱粉粘度特性

 

表1:F1世代における花粉の分離
表1:F1世代における花粉の分離

 

表2:生育・収量・品質試験成績(標準栽培、平成8、11年度平均)
表2:生育・収量・品質試験成績(標準栽培、平成8、11年度平均)

 

その他

  • 研究課題名:小麦の良質品種の育成、デンプン変異系統の特性評価と遺伝様式の解明、温暖地向け低アミロースおよびもち性小麦品種の育成
  • 予算区分:経常、高品質輪作、麦緊急開発
  • 研究期間:平成12年度(平成3年~12年、高品質輪作は平成6年~7年、麦緊急開発は平成11年~12年)