スクミリンゴガイの越冬を制限する環境要因

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要約

スクミリンゴガイの分布北限地域における越冬は農業排水路のごく限られた場所でのみ起こり、農業排水路での越冬はpHと溶存酸素量によって制限されている。

  • キーワード:スクミリンゴガイ、分布北限地域、越冬、農業排水路、pH、溶存酸素量
  • 担当:中央農研・虫害防除部・害虫生態研究室
  • 連絡先:0298-38-8939
  • 区分:共通基盤・病害虫(虫害)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

スクミリンゴガイによる水稲への被害は、移植期、あるいは播種直後の限られた時期に集中する。スクミリンゴガイの被害と個体密度とは強い相関を持 つので、被害防止のためには越冬明け個体群の密度を制御することが重要である。越冬個体群の管理を行うためには、越冬に適した生息場所が示す環境条件の特 徴を明らかにすることが重要であるが、これまで越冬と環境条件の関係は、温度条件を除いて定量的に検討されてこなかった。そこで、スクミリンゴガイの越冬 と環境条件の調査を行い、越冬が可能な場所と不可能な場所を識別するうえで重要となる環境要因の特定を行った。

成果の内容・特徴

  • スクミリンゴガイの分布北限地域の一つである茨城県霞ヶ浦町柏崎の水田と農業排水路において、スクミリンゴガイの侵入している水田7地点と、その 周囲を流れる農業排水路の13地点でスクミリンゴガイの越冬調査を行った。その結果、水田での越冬個体は確認されず、農業排水路では13地点中6地点でし か越冬個体を確認することが出来なかった。
  • 水路での越冬の可否の要因を検討するために、越冬前の個体密度と殻高の平均値を独立変数とし越冬の可否を従属変数とする単純ロジスティック回帰分析を行った。その結果、越冬前のスクミリンゴガイの密度とサイズは、調査地点毎の越冬の可否を説明することが出来なかった(表1)。 そこで、農業排水路内での越冬を制限している外部環境要因を明らかにするために、農業排水路の全ての調査点で、越冬期間中の水深、流速、溶存酸素量、 pH、2週間間隔の最高・低温水温の計測をおこない、これらの環境データ(平均値)を独立変数とする単純ロジスティック回帰分析を行った。その結果、 pH、DO、水深の3つの変数が、調査地点毎の越冬の可否を説明することが出来た (表2)。
  • 以上の結果より、スクミリンゴガイ分布北限地域では、生息場所である農業排水路のpHや溶存酸素量の変動が、本種の越冬を規定する重要な環境要因であることが示された。

成果の活用面・留意点

  • スクミリンゴガイの越冬に適した場所を特定する上での基礎情報となる。
  • 相関分析を元にしたこれらの解析では、対象とする空間スケールや環境要因の変動幅によって重要な環境要因が変化することが知られている。実際に越冬適地を探索する際には、地域ごとの調査が必要になる。

具体的データ

表1 越冬前の貝密度と殻高を独立変数とする単純ロジスティック回帰分析における尤度比検定の結果

 

表2 環境データを独立変数とする単純ロジスティック回帰分析における尤度比検定の結果

 

その他

  • 研究課題名:スクミリンゴガイの分布制限要因の解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1999~2001年度
  • 研究担当者:伊藤健二、守屋成一、本多健一郎、水谷信夫