水稲の根系による重粘土の粗間隙形成作用

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要約

重粘土を乾燥させた際に形成される粗間隙は,水稲の根系の存在により増加する.この効果は,栽培期間中の水分吸収が盛んな根系で著しいが,収穫後の水分吸収が行われない残根においても期待される.

  • キーワード:土壌の乾燥収縮,粗間隙,土壌構造,土壌の緊縛,根密度,蒸散
  • 担当:中央農研・北陸水田利用部・水田整備研究室
  • 連絡先:0255-26-3233
  • 区分:関東東海北陸農業・北陸・経営作業技術
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

北陸地域の粘土質水田を畑に転換する場合,転換直後の砕土性が問題となることが多い.砕土性の改善には,排水性の改善のみならず,土壌構造形成の促進が重要である.粘土質水田では,乾燥により著しい亀裂が発達し,排水性の向上には効果的である.その反面,亀裂部以外は緻密な塊状構造となり,土壌構造は発達しにくい.そのため,土壌が乾燥収縮する際には,間隔が数十センチ以上で幅も数センチ以上といった大きな亀裂のみならず,大きさが数ミリから数十ミクロンのいわゆる「粗間隙構造」が発達するような工夫も必要となる.作物の根系は,土壌を機械的に縛り付け,土粒子の自由な移動を妨げる働きを持つことが知られている.また,同時に水分を吸収し,土壌中に引張応力を発生させる.そのため,土壌中に多くの破断部を形成する効果が期待される.本成果は,粘土質土壌が乾燥する際に生じる粗間隙の多少と水稲の根系との関わりを,実験的に明らかにすることを狙った.

成果の内容・特徴

  • 根系を含む粘質土壌では,乾燥による収縮に伴い,大亀裂のみならず多くの粗間隙(微細亀裂)が内部に形成される.その割合は,水稲の根密度が高いほど高くなる(図1,図2).
  • 粘質土壌の乾燥収縮に伴う粗間隙(微細亀裂)形成作用は,根系からの水分の吸収が行われているときに著しい(図1と図2の比較).
  • 水分の吸収が行われている根系を含む土壌では,水分吸収と土粒子の機械的固定という二つの機能が複合的に作用し効率的に粗間隙が増加する(図3,表).
  • 水分を吸収しない残根(耕耘は行われない状態)が土中に存在する場合にも,土粒子の機械的固定作用は単独で作用する.そのため,蒸発による乾燥が進めば,粗間隙の増加が促進される(図2,図3,表).

成果の活用面・留意点

  • 粘土質土壌の土壌構造形成作用に対する,乾燥と作物根系の重要性を示す知見である.粘土質圃場の乾燥は,水分の吸収の有無にかかわらず,根系が土中に含まれた状態で行うことが望ましいことを裏付けるデータである.
  • 生育期間中の根系のみならず,水分を吸収しない収穫後の残株の根系も,粘質土壌の構造形成に役割を持っていることを示している.
  • 気相比(気相容積/固相容積)を「乾燥収縮により形成された粗間隙(微細亀裂)量」とみなせる理由は1)乾燥前には代かきによりほとんど粗間隙は存在していないことと,2)降雨後十分に時間が経過した後(5日~6日後)に採取した試料であることを示している。

具体的データ

図1 落水乾燥後の根密度と気相比 図2 乾燥後の根密度と気相比
*蒸散が盛んな8月初旬に落水し,
十分乾燥が進んだ後に水稲条間の
土壌を条からの距離を変えてサンプラー
により採取し,気相比と含有する根の
重量を測定したもの.
*落水直前に稲の茎葉を切断した上で,
8 月初旬に落水し,十分乾燥が進んだ後に
条間における土壌を条からの距離を変えて
サンプラーにより採取し,気相比と含有する
根の重量を測定したもの.

図3 気相比の変動に対する水分,根密度の寄与の分離

 

表 気相比の変動に対する水分,根密度の寄与

その他

  • 研究課題名:重粘土水田における亀裂の形成を支配する要因の解明
                      重粘土水田における亀裂形成制御法の開発
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1996~1998,1999~2002年度
  • 研究担当者:吉田修一郎,足立一日出
  • 発表論文等:1)Yoshida and Adachi(2001): 土壌の物理性, 86, p53-60.