関東東海地域における水田貸借展開の規定要因
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
自家耕作できなくなった水田が借地に向かうか耕作放棄に向かうかを規定する要因として、水田基盤条件及び転作の組織化状況が影響力を持つ。両要因は近年の新たな借地増加にも影響する。また、近年の借地増大は大規模経営の水田集積と強く相関する。
- キーワード:水田借地、耕作放棄、水田集積、水田基盤条件、転作組織化
- 担当:中央農研・経営計画研究部・地域営農研究室
- 連絡先:0298-38-8566
- 区分:関東東海北陸農業・関東東海・経営
- 分類:行政・参考
背景・ねらい
高齢化の進展や兼業深化の中で、自家耕作できなくなった水田が、耕作放棄されずに貸借に移行できるか否かは、地域の農地を保全・管理していく上での大きな関心となっている。その際、転作集団化に象徴される集団的土地利用秩序の形成及び水田基盤整備水準が貸借進展にプラスの影響を及ぼしていると推定される。そこで、この2要因に他の要因も加えて、耕作放棄及び借地への移行を如何に規定しているかについて、市町村別の統計データを用いた重回帰分析により明らかにする。
成果の内容・特徴
- 高齢化等により自家耕作ができなくなった水田が、耕作放棄されずに貸借関係に進んだ割合を「借地化率」(=水田借入面積/(水田借入面積+耕作放棄水田))という指標を用いて表した上で、それに影響を与える変数の探索を行った(第1図)。この結果から以下の点が明らかになった。ア)耕作放棄に向かうか借地に向かうかは水田基盤条件が影響する。イ)「自給農家率」が多ければ「借地化率」は低い。すなわち水田放棄化率は高くなる。ウ)「水田借入のある農家の割合」は、プラスに働いて当然であるが、その他の変数との比較では想像以上に低い寄与率である。すなわち、単に水田借入している農家の比率が高いことが借地化率を高める決定的な要因とはなり得ていない。エ)「転作組織化率」がプラスでることから、転作組織化が図られている市町村で耕作放棄を押さえ借地が進展しているといえる。オ)「稲作以外の単一農家の割合」がマイナスの影響となるのは、集約化地帯における、水田余り現象を反映していると推測される。
- '85年と'95年の借入水田面積率の変化量を求め、それに影響を与える変数を探索した結果以下の点を明らかにした(第2図)。ア)「田のある農家の減少率」及び「水田借入のある農家の割合」が高い影響力を持つのはいわば当然の結果である。イ)注目点は、ここでも「転作組織化率」が、プラスの影響力を持つことである。すなわち転作の組織化の進展具合が借地面積の増大にも影響しているといえる。ウ)寄与率が大きくはないが「不整形水田の割合」がマイナスに、「20a区画以上の水田割合」がプラスに影響することが注目される。静態的分析では水田基盤条件に関する変数はあまり有意な影響をもっておらず、近年の借地の進展との関係で注目できる結果である。
- 借入水田面積率と大規模経営への水田集積率は静態的分析でも、互いの変化量(「率」の変化量)の相関分析でもプラス相関(R2=0.4程度)が得られているが、水田借入面積の5年間の増大面積(実数)と大規模経営への水田集積の5年間の増大面積(実数)をそのまま相関分析すると極めて高い相関(R2=0.80)が得られる(第3図)。すなわち、近年の新たな借地増加と大規模経営への水田集積は強く相関しているといえる。
成果の活用面・留意点
- 平坦地が多く、兼業条件の恵まれた地帯における分析に適用を限定する。
具体的データ
注1)借地化率=水田借地面積/(水田借地面積+耕作放棄水田面積)×100
注2)借入面積の増減率='95年の水田借入面席率-'85年の水田借入面席率
注3)転作組織化率=(高度水田営農推進助成対象面積+水田営農確立助成対象面積)/生産調整対象面積×100
注4)水田基盤条件は「第3次土地利用基盤整備基本調査」(構造改善局 平成5年調査)による
注5)「大規模経営」とは5ha以上の農家及び田のある農家以外の事業体を指す
注6)農家属性に関するデータはセンサスデータ('95センサス、'85センサス)による
注7)重回帰分析はSPSSのステップワイズ法による
注8)サンプルは関東東海地域の市町村(水田率30%未満、水田面積100ha以下の市町村除く624市町村)
その他
- 研究課題名:大規模水田輪作営農確立のための農地利用システムの解明
- 予算区分:21C7系
- 研究期間:2001~2003年度
- 研究担当者:平野信之、高橋明広
- 発表論文等:平野信之 (2001)「水田農業の構造変化」関東東海農業経営研 No.92