化学肥料および豚ぷん堆肥を連用した黒ボク土畑における硝酸性窒素の溶脱

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要約

黒ボク土畑に化学肥料を連用した場合、作物に吸収されない窒素は硝酸性窒素として溶脱し、深さ1 mの土壌溶液に影響が現れるのに1年半を要した。豚ぷん堆肥連用では、土壌溶液中の硝酸性窒素濃度は4年目に上昇しはじめ、6年目には化学肥料と同レベルに達した。

  • キーワード:硝酸性窒素、溶脱、堆肥、被覆肥料、土壌溶液、窒素安定同位体比
  • 担当:中央農研・土壌肥料部・水質保全研究室
  • 連絡先:電話0298-38-8829、電子メールmun@affrc.go.jp
  • 区分:関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

畑地におけるNO3-Nの溶脱を低減するためには、有機質資材や被覆肥料等を利用した合理的な肥培管理技術を確立する必要がある。本研究では、黒ボク土畑圃場において各種肥料・資材がNO3-Nの溶脱に及ぼす影響を長期連用試験によって調査・解析する。

成果の内容・特徴

  • 淡色黒ボク土畑圃場(谷和原)に、速効性肥料区(RF区:400 kg N ha-1 y-1)、被覆尿素区(CF区:400 kg N ha-1 y-1)、豚ぷん堆肥区(SC区:800 kg N ha-1 y-1、肥効率を50%と仮定)、無肥料区(NF区)の4処理(7×8m)を2反復で設け、スイートコーン(5~8月)-ハクサイ(またはキャベツ、9~12月)を栽培して9年間の連用管理をおこなった(表1)。
  • SC区における作土の全窒素は堆肥の連用にともなって上昇した。6年後にはNF区に比べて2.5 g kg-1高く、この増加分は3375 kg N ha-1で(仮比重:0.9 Mg m-3、作土深15 cm)、施用N量の68%に相当する。8年後でも同様に施用N量の65%が作土に残存していた(表2)。
  • 化学肥料(RF・CF)区における1 m深の土壌溶液中NO3-N濃度は約1年半後に影響が現れ、その後はRF 区は40~60 mg L-1、CF 区は30~50 mg L-1で推移した。CF区ではRF区よりも作物による吸収Nが多いためにNO3-N濃度が低減したと考えられる。一方、SC区においては、最初の3年は無肥料区と同レベルの濃度であるが、4年目以後徐々に上昇して6年目には化学肥料と同レベルの濃度に達した(図1)。これは、土壌中に蓄積してきた堆肥由来の有機態窒素の無機化量が増大してくるためと推察される。
  • 土壌溶液中NO3-N濃度は降水量の多い年(5年目;7年目)の翌年に低下した(図1)。δ15N値の変動は小さいことから、濃度低下の原因は脱窒ではなく、主に降雨による希釈効果であると判断される(表3)。
  • 化学肥料(RF・CF)区において、N・水収支式による推定NO3-N濃度は深さ1mの平均NO3-N濃度と一致し(表1)、吸収されないNの大半は下層土へ溶脱することが示唆された。

成果の活用面・留意点

  • 9年間の連用ではSC区のN収支は平衡に達しておらず、より長期の観測が必要である。
  • CF施用量を削減しても、RF区と同収量を維持しつつN溶脱量を低減できる可能性がある。
  • 深さ1mを溶脱したNO3-Nは、地下水面付近において脱窒される可能性がある。

具体的データ

表1 各種肥培管理下での施用窒素、吸収・持出窒素、および窒素・水収支式によるNO3-N 濃度の推定

 

表2 作土の全窒素(TN)の変化

 

表3 深さ1mにおける土壌溶液のd15N 値

 

図1 深さ1m における土壌溶液中NO3-N 濃度の推移と年度毎の積算降水量

その他

  • 研究課題名:集約畑下層土における水移動と肥料成分の動態解明
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1994~2001年度
  • 研究担当者:前田守弘、尾崎保夫、阿部薫
  • 発表論文等:Maeda et al.(2003)Environ. Pollut. 121:477-487.