イネ登熟穎果のショ糖吸収に関与するショ糖トランスポーター遺伝子

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要約

イネから単離したショ糖トランスポーター遺伝子OsSUT1は登熟穎果の糊粉層と胚乳細胞で発現し、光合成産物の転流形態であるショ糖の胚乳における吸収に重要な役割を果たしている。

  • キーワード:イネ、遺伝子発現、ショ糖トランスポーター、登熟穎果、糖輸送
  • 担当:中央農研・北陸地域基盤研究部・稲機能開発研究室
  • 連絡先:電話025-526-8300、電子メールdragon@affrc.go.jp
  • 区分:関東東海北陸農業・北陸・生物工学
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

イネにおける光合成産物の転流形態はショ糖であり、登熟時には主に葉で合成されたショ糖が穂へと転流される。一方、種子の胚や胚乳は子側組織であり、果皮や種皮などの親側組織との間に細胞質の連続性がない。したがって、転流されたショ糖は一旦細胞外に放出された後に糊粉層の表面で吸収され、胚乳等の内部組織に運ばれる。糊粉層でのショ糖吸収の過程ではショ糖トランスポーターが働いていると推測されるため、この遺伝子の単離と機能解析を行い、登熟特性の改良に向けた基礎的知見を得る。

成果の内容・特徴

  • イネ緑葉のcDNAライブラリーから単離したショ糖トランスポーター遺伝子(OsSUT1)は、発芽種子、葉身、葉鞘および登熟穎果で発現している。登熟穎果では開花後5~7日目に特に強く発現している。(図1)
  • 登熟穎果においてOsSUT1は糊粉層で強く発現し、また胚乳細胞でも発現している。(図2)
  • アンチセンス法でOsSUT1の機能を抑制すると登熟歩合が低下する。(図3)
  • アンチセンス組換え体の登熟穎果では、ショ糖の吸収能力が低下する。(図3)
  • アンチセンス組換え体と非組換え体との間で、全葉重量や籾数に差はない。また、個葉光合成速度にも両者の間に差はなく、アンチセンス組換え体の登熟歩合の低下は光合成産物の供給量の減少によるものではないと推察できる。(図3)
  • 以上のことから、OsSUT1はイネの登熟穎果において、胚乳におけるショ糖の吸収の役割を担い、登熟に深く関与すると結論できる。

成果の活用面・留意点

  • OsSUT1は登熟に深く関与する要因の一つであり、その改変により登熟特性や光合成産物の分配特性を制御できる可能性がある。
  • 登熟穎果以外の組織におけるOsSUT1の機能は現在解析中である。
  • イネにはOsSUT1の他にもショ糖トランスポーター遺伝子が存在するので、それらの機能も解析する必要がある。

具体的データ

図 1 半定量RT-PCR によるOsSUT1 の発現解析

図 2 開花後5日めの穎果におけるOsSUT1 の発現部位のin situ ハイブリダイゼーション解析

 

図 3 アンチセンス組換え体を用いたOsSUT1の機能解析

 

その他

  • 研究課題名:水稲の登熟過程を制御する生理・遺伝的要因の解析
  • 予算区分:形態・生理
  • 研究期間:1998~2002年度
  • 研究担当者:廣瀬竜郎、寺尾富夫、高野誠(生物研)、GN Scofield(CSIRO)、RT Furbank(CSIRO)
  • 発表論文等:1)Hirose et al. (2002) Plant Cell Physiol. 43: 452-459.
                      2)Scofield et al. (2002) Funct. Plant Biol. 29: 815-826.