施設トマトにおける線虫のリサージェンスを回避する微生物資材と植穴くん蒸の併用技術

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要約

初作にパスツリア菌を全面処理し、次作以降クロルピクリン・D-Dくん蒸剤の植穴くん蒸処理およびパスツリア菌の植穴少量処理と菌 根菌定着苗の定植を行う体系は、施設トマトの線虫害を速やかに終息させ、体系処理中止後も線虫の密度回復を抑制する。

  • キーワード:トマト、サツマイモネコブセンチュウ、アーバスキュラー菌根菌、パスツリア菌、植穴くん蒸処理、リサージェンス、 IPM
  • 担当:中央農研・虫害防除部・線虫害研究室、病害防除部・土壌病害研究室
  • 連絡先:電話029-838-8839、電子メールmizu@affrc.go.jp
  • 区分:関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)、共通基盤・病害虫(虫害)
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

環境保全の要望等の背景から、施設栽培における減農薬線虫防除体系の確立が危急の課題である。施設栽培では、土壌くん蒸剤の投入、 有機物の不足、塩類集積 などにより線虫類の有力天敵を含む土壌微生物相が破壊され、サツマイモネコブセンチュウ(以下線虫)のリサージェンス(誘導多発生 )が常態化している。ク ロルピクリン系くん蒸剤、熱水土壌消毒などの防除手段は線虫防除に卓効がある反面、土壌微生物相も破壊するため、線虫のリサージェ ンスを終息させることが できない。線虫害のIPMでは農薬の少量投与と天敵補給により、生産と天敵微生物相の回復を最適化させる戦略が合理的である。そこで 、施設栽培トマトにお いて植穴少量くん蒸処理とパスツリア菌(線虫天敵微生物)・菌根菌処理を併用し、実用的で持続可能な線虫の総合防除(IPM)体系を 構築し、実証する。

成果の内容・特徴

  • クロルピクリン・D-Dくん蒸剤の全面くん蒸処理はトマトの線虫害防除に卓効を示す(図1、表2)が、線虫のリサージェンス状態が 維持されるため、処理を中止すると線虫密度が著しく回復し、生産も阻害される(表3:全面くん蒸中止)。
  • 熱水処理後の植穴くん蒸処理は線虫害の抑制(図1、表2)と生産(表3)の確保に有効であるが、リサージェンス状態は維持される ため、植穴くん蒸を中止すると線虫密度が回復し減収する。熱水処理では線虫害抑制のため植穴くん蒸処理の継続が必要である。
  • 初作にパスツリア菌製剤を1kg/10a全面混和し、次作以降微生物処理(パスツリア菌の植穴処理とアーバスキュラー菌根菌 〔Glomus sp. R-10〕定着苗の定植を併用)を植穴くん蒸処理後に続ける体系処理は、線虫害を速やかに低下させ、第6作の体系処理中止後も低く抑え る(図1、表2:微生物・植穴くん蒸)。その初期収量はやや低いが、第3作で線虫害が回避され、以降全面くん蒸処理と同等の高収量が確保される。

成果の活用面・留意点

  • パスツリア菌製剤〔パストリア水和剤〕および菌根菌製剤は市販されている。
  • 植穴処理のくん蒸剤および天敵細菌の1作毎の使用量は、2000株/10aの場合、全面処理の1/5量以下に節約できる。
  • 仮に10年の継続防除効果を見込み、第5作で処理を中止した場合、パスツリア製剤、菌根菌、クロルピクリン・D-Dくん蒸剤の体系 処理コストは、2万4千円/10a/年で消却できる。

具体的データ

表1.試験区の熱水土壌消毒,微生物資材,植穴くん蒸処理概要

 

図1.微生物処理による根こぶ被害度(線虫の被害)の軽減効果 写真(右)は0~10段階根こぶ被害度(1~4段階は軽微な被害である)

 

 

 

その他

  • 研究課題名:パスツリア菌、菌根菌等の利用による線虫防除技術の実証
  • 課題ID:03-09-01-01-02-03
  • 予算区分:IPM
  • 研究期間:2002~2003年度
  • 研究担当者:水久保隆之、竹原利明、伊藤賢治、相場聡、仲川晃生