我が国独自の組換え技術を統合した複合病害抵抗性組換えイネの作出法

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要約

導入遺伝子を可食部で働かせない技術、イネ遺伝子を使った組換え体の選抜技術および野菜由来のディフェンシン遺伝子などの遺伝子 組換え技術を統合することで、安心に配慮し複合病害抵抗性が付与された組換えイネ系統が作出できる。

  • キーワード:イネ、組換え体、特異的発現、減農薬栽培、複合病害抵抗性
  • 担当:中央農研・北陸地域基盤研究部・稲組換研究チーム
  • 連絡先:電話025-526-8319、電子メールkawata@affrc.go.jp
  • 区分:関東東海北陸農業・生物工学、作物・生物工学
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

安全省力化と減農薬栽培を実現し高品質な米を生産するためには、安心に配慮した遺伝子組換え技術の開発とともに、病気に強い遺伝子 組換えイネ系統の開発が 重要な課題である。本成果では、導入遺伝子を可食部で働かせず、イネ遺伝子を使った組換え体の選抜技術を用い、野菜由来の病気に強 い遺伝子を用いる、とい う発想により、いもち病などのイネの重要病害に抵抗性を示し、減農薬栽培を実現する組換えイネを作出する。

成果の内容・特徴

  • 組換えイネの作出は、我が国独自の組換え技術を統合して実施する(図1)。遺伝子導入は、イネ種子を用いて超迅速形質転換法で 行う。
  • 遺伝子導入には、イネ由来の選抜マーカー遺伝子(自然変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子:mALS)をイネ由来のカルス特異的 プロモーター(C50060)の下流に、カラシナ由来の抗菌蛋白質ディフェンシン遺伝子をイネ由来の緑葉特異的プロモーター(E0082)の下流 に連結す るとともに、イネ由来のP10ターミネーターを各遺伝子の下流に連結した発現カセットを組み込んだバイナリベクターを用いる(図2) 。
  • これらの遺伝子を導入したイネ細胞は、mALSの効果により除草剤(ビスピリバックナトリウム塩)を含む培地で生長できるため、 非組換え細胞と容易に区別でき、効率的に組換えイネが得られる。
  • このベクターを用いて作出した組換え体の病害抵抗性検定により、いもち病抵抗性を付与された組換え体が選抜できる(図3a)。 いもち病抵抗性を付与された組換え体から、さらに選抜することによって、白葉枯病菌のレース非特異的に抵抗性を示す組換え体が得ら れる(図3b)。選抜された組換え体の草型および稔性には問題なく、後代種子が得られる。
  • mALS遺伝子は細胞選抜時のみで発現し、可食部で発現しない。またディフェンシン遺伝子は緑色組織のみで発現し、可食部で発現 しない(図4)。

成果の活用面・留意点

  • 我が国独自の組換え技術を統合することで、安心に配慮した病害抵抗性組換えイネが開発可能なことを示した本成果は、減農薬栽培 を実現する組換えイネ実用化への貢献が期待される。
  • 本成果はイネを供試材料として実施したものであり、他作物に利用する際には各要素技術を最適化する必要がある。

具体的データ

図1.安心に配慮した組換え技術を統合したイネ組換え体作出の流れ図

 

図2.組換え体作出に用いたバイナリーベクター

 

図3.組換え体の複合病害抵抗性

 

図4.組換え体におけるディフェンシン遺伝子の組織特異的発現

 

その他

  • 研究課題名:安全性に配慮した実用的な病害抵抗性組換えイネ系統の開発
  • 課題ID:02-*-01-*-01-03
  • 予算区分:融合研究
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:川田元滋、吉田均、園田亮一、平八重一之、森浩一、内田英史、木水真由美、井沢典彦(クミアイ化学工業(株))、大 島正弘(作物研)、大槻寛、田中喜之(生物研)、田中宥司、黒田秧(作物研)
  • 発表論文等:
    1)Kawata et al.(2003) Anal. Biochem. 318:314-317.
    2)Kawata et al.(2003) JARQ 37(2):71-76.
    3)川田ら(2003) 農業および園芸 78(4):470-476.