イネ萎縮ウイルスの細胞内構築プロセス
※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。
要約
イネ萎縮ウイルスが感染細胞で形成する球状の封入体は、バイロプラズマと呼称できるウイルス合成工場である。封入体内部でウイルス核酸と内殻粒子が合成され、周縁部で外殻タンパク質が集積して非構造タンパク質の介在によりウイルス粒子を構築する。
- キーワード:イネ萎縮ウイルス、封入体、ウイルス粒子、バイロプラズマ
- 担当:中央農研・病害防除部・ウイルス病害研究室
- 連絡先:電話029-938-8932、電子メールtoomura@affrc.go.jp
- 区分:共通基盤・病害虫(病害)
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
イネ萎縮ウイルス(RDV)は宿主であるイネ及び媒介昆虫のツマグロヨコバイで増殖する植物の病原ウイルスである。12本に分節し
た2本鎖RNAをゲノムとし、各RNAが1種類のタンパク質をコードする。P1、P3、P5及びP7タンパク質は内殻、P2、P8及びP9タンパク質は外
殻を構成し、図1に
示す構造と機能を持つ。非構造タンパク質であるPns4、Pns6、Pns10、Pns11及びPns12はウイルス粒子の構築を助けるが粒子には組み込
まれない。イネ萎縮病防除の効果的手段としてウイルスの伝染環を遮断するためには、ウイルスを構成する全分子の感染細胞における動態に関する情報が必要で
ある。そこで、ウイルスに感染したツマグロヨコバイの培養細胞を用いて、ウイルス粒子、その核酸及びタンパク質の動態を、ウイルス接種後経時的に共焦点
レーザー顕微鏡法及び組織免疫電子顕微鏡法によって解析し、ウイルスの構築プロセスを明らかにする。
成果の内容・特徴
- RDVを接種したツマグロヨコバイの培養細胞では接種6∼8時間目から球状の封入体が形成される。封入体は非構造タンパク質のPns6(図2)、Pns11及びPns12(図2、3)で構成され、接種18時間目頃に最大のサイズになる。
- 封入体の内部にウイルス核酸が合成される(データ未表示)。
- 封入体の内部に内殻粒子を構成するP1(図2、3)P3、P5及びP7が集合し、封入体の周縁にウイルス粒子の外殻を構成するP2、P8(図2、3)及びP9が集積する。ウイルス構造タンパク質の動態は細胞レベル(図2)及び電子顕微鏡観察レベル(図3)で一致している。
- 接種18時間後には封入体周縁部に完全ウイルス粒子が構築される(データ未表示)。
- 上記分子の動態解析から、球状の封入体がバイロプラズマと呼称されるウイルスの合成工場であること、及びそこで進行するウイルス粒子の構築プロセスが解明された。
成果の活用面・留意点
- 植物レオウイルスに属するウイルスの合成プロセスを分子レベルで解析した初めての知見であり、ウイルスの伝染環を遮断するための研究において参考になる。
具体的データ

その他
- 研究課題名:植物ウイルスの媒介昆虫-宿主植物間のシャトル感染機構の解明
- 課題ID:03-07-02-01-08-05
- 予算区分:科研費基盤研究(B)
- 研究期間:1999∼2005年度
- 研究担当者:大村敏博、Wei Taiyun (海外特別研究員)、清水巧(特別研究員)、萩原恭二(特別研究員)、一木珠樹
- 発表論文等:Wei et al. (2006). J. Gen. Virol. 87:429-438.