バクテリア様微生物によるイチゴ葉縁退緑病(新称)の発生

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要約

愛媛県で発生したイチゴに生育不良、果実の奇形、葉縁の退緑等を引き起こす病害の病原は、国内未報告のバクテリア様微生物、‘Candidatus Phlomobacter fragariae’であり、PCR法で検出できる。

  • キーワード:イチゴ、バクテリア様微生物、葉縁退緑病、新病害、遺伝子診断
  • 担当:中央農研・病害防除部・ファイトプラズマ病害研究室
  • 連絡先:電話029-838-8930、電子メールminomino@affrc.go.jp
  • 区分:共通基盤・病害虫(病害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

2004年1月に愛媛県で栽培(前年秋に定植、土耕)されていたイチゴに、萎縮そう生、葉縁退緑症状を呈する、これまでに国内で報告されたことのない新たな病害が発生した。そこで、病原体を同定し、診断技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • イチゴ葉縁退緑病に罹病したイチゴは、株全体の生育不良、萎縮、小葉化、果実の奇形、成熟不良、葉縁の退緑の病徴を示す(図1)。
  • 本病の病原体は、罹病イチゴの葉脈等の篩部細胞内に局在し、透過型電子顕微鏡を用いると、厚さ約25nmの細胞壁を有し、直径約250nm、長さ2∼3μmとして観察されるバクテリア様微生物(BLO)である(図2)。
  • 本病の病原BLOの16SリボソームRNA遺伝子の全長塩基配列は、1993年にフランスで発生が報告され、病徴や病原体の形態が本病と酷似するstrawberry marginal chlorosis病の病原体として知られる‘Candidatus Phlomobacter fragariae’のLG2001株と99.7%が一致(差異は1484塩基中4塩基)することから、本病の病原BLOは種としては‘Ca.P. fragariae’であり、LG2001株とほぼ同一の系統であると考えられる。
  • 本病は、フランスで発生している‘Ca. P.fragariae’の検出用に設計された、プライマーセットFra4/Fra5(Zreik et al., 1998、16SリボソームRNA遺伝子検出用)、及びPfr1/Pfr4(Foissac et al., 2000、spoT遺伝子検出用) を用いたPCR法により、特異的に検出できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本病は全身感染し、ランナー等の栄養繁殖においても病原体は伝搬されるので、罹病イチゴを親株に用いて苗の増殖をしない。
  • 本病は過去にはフランスでの発生が報告されているのみであり、侵入病害である可能性も考えられる。
  • Candidatus Phlomobacter fragariae’はフランスではヒシウンカ科の昆虫によって媒介されることが報告されている。
  • 2005年に千葉県で新たに本病の発生が確認されている。

具体的データ

図1.イチゴ葉縁退緑病の病徴

 

図2.イチゴ葉縁退緑病の病原BLOの電子顕微鏡観察像
バーは1μm

 

図3.‘Ca. P.fragariae’のPCR法による検出
A:16S rRNA遺伝子、B::spoT遺伝子

 

その他

  • 研究課題名:イチゴ葉縁退緑症の病原体の同定
  • 課題ID:03-07-04-*-08-05
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2004∼2005年度
  • 研究担当者:田中 穣、宇杉富雄