農業・農村の気候緩和機能の評価モデル

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要約

都市モデルと植生モデルを導入した最新の気候緩和評価モデルを開発した。行政担当者や専門外の研究者はPC-Windows上でGUIを使って、簡単に全国の微細気象情報を知ることができる。この微細気象情報から農業・農村のもつ気候緩和機能量が算定できる。

  • キーワード:気候緩和評価モデル、気候緩和指数、シミュレーションモデル、多面的機能
  • 担当:中央農研・農業気象災害研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8418、電子メールnarc_seika@affrc.go.jp
  • 区分:共通基盤・農業気象
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

農業・農村のもつ多面的機能が新農業基本法に位置づけられ、そのひとつである気候緩和機能量の評価が行政部局等から要請されている。気候緩和機能量は明確な定義の下に、科学的に評価されなければならない。そこで、行政担当者や専門外の研究者が、精度と信頼性のある数値モデルを用いて、最小限の手続きで、簡単に気候緩和機能量が評価できるシステムを開発する。

成果の内容・特徴

  • 図1は代表的な夏期晴天日の平均気温とBowen ratio(ボーエン比)との関係である。本来、ボーエン比は地表面の湿潤度を表す指数であることから、図中の都市と畑や水田との気温差は植生や用水の有無による違いと考えられる。図1に示されるBowen ratioと昼間の平均気温の関係に土地利用が及ぼす影響を用いて、埼玉県春日部市周辺の土地利用の変更に伴う気温への影響を推定したところ、数値モデルによるシミュレーション結果とほぼ一致した。これはボーエン比が精度的にも充分な気候緩和指数であることを実証している。
  • 気候緩和評価モデルによるシミュレーション実験がGUIを使って、簡単に実行できる。計算に必要な海面水温データ、気候データ、国土数値情報等はすべてシステムに収納されている。計算終了後に、2次元の降水量、短波放射量、土壌水分、顕熱フラックス、潜熱フラックス等、および3次元の風速ベクトル、気温、混合比等が図化できるので、簡単に気候緩和機能量の差異を調べることができる。
  • このモデルは、土地利用や気象条件を自由に変更することができる。図2は、2004年8月2日の夏期晴天日の気象条件で、現在の土地利用から1976年当時に変更した時のつくば市を中心とする12時の気温分布のシミュレーション結果である。1976年と比較して、現在の気温は全体的に高温で、特に首都圏に隣接する地域で気温上昇が認められる。その主因は首都東京をはじめとする周辺市街地のヒートアイランド現象の強化によるものと推測される。このように農業と気象への利用が可能となった。
  • このモデルの最小空間分解能は250mである。これは小規模な宅地化や緑地空間の整備に伴う周辺環境への影響が評価できる空間スケールである。しかし、気候緩和効果を特定の日のみで評価することに問題がある場合には、連続シミュレーションを実行するか、種々の条件下におけるアンサンブル平均を求めることが望ましい。

成果の活用面・留意点

  • このモデルの推定精度等について、すべての条件下で検証した訳ではない。したがって、豪雨や台風の通過が含まれるケースでは計算不安定となる場合がある。
  • このモデルは最新の局地気象モデルで、様々な活用が考えられるが、調査研究以外に用いる場合には農研機構に利用許諾書の提出が必要である。

具体的データ

図1 夏期晴天日の代表的なBowen ratio(ボーエン比)と昼間の平均気温の関係。表1.モデル導入のコンピュター環境

図2. 夏期晴天日(2004年8月2日12時)の気温分布を、現在の土地利用(右図)と1976年の土地利用(左図)の条件下でシミュレーションした結果。

その他

  • 研究課題名:栽培適地適作期判定支援システムの開発
  • 課題ID:215-c
  • 予算区分:研究高度化事業
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:
      井上君夫・大原源二・脇山恭行・中園 江(中央農研)、木村富士男・黒川知恵・日下博幸・
      井上忠雄(筑波大学)、後藤伸寿・吉川 実(みずほ情報総研)、菅野洋光・佐々木華織(東北農研)、
      畠中昭二(関東農政局)
  • 発表論文等:
      「気候緩和評価モデルで、ここまで解かる」の成果集(2007年2月発行)、職務発明プログラム
      (18中セ第06101304号「気候緩和評価モデル」)に認定、気候緩和評価モデルVer.2.3(2007年2月リリース)。