運搬給与コストを半減する稲発酵粗飼料の放牧地給与技術

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要約

稲発酵粗飼料(イネWCS)を収穫圃場周囲で冬季に、電気牧柵を利用して牛の採食行動を制限して給与することにより、残飼は10%程度に抑えられ、イネWCSを牛舎へ運搬給与する場合と比べて経費は約50%削減される。

  • キーワード:稲発酵粗飼料、肉牛、冬季放牧、電気牧柵
  • 担当:中央農研・関東飼料イネ研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8481
  • 区分:共通基盤・総合研究(飼料イネ)、畜産草地
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

飼料イネの生産利用の普及には、生産費の低減とともに運搬利用に関わる負担の軽減が必要である。他方、近年普及している牧草地放 牧は、放牧期間が限定されるため飼養規模拡大には限界がある。そこで、イネWCSの運搬給餌作業等の軽減、及び肉牛経営の発展方策として、イネWCSの冬 季放牧地給与技術を開発し、その効果を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イネWCSの放牧地給与方法は以下のとおり。1圃場に移設の容易な電気牧柵を設置し、繁殖牛を放牧する。牛群頭数はイネ WCS1ロールを2~3日以内に食べきれる頭数以上とする。2排水不良で泥濘化が予想される圃場のイネWCSは、排水の良い圃場に移動して放牧する。3未 開封のイネWCSは、周囲に電気牧柵を張り牛が近づかないようにする。イネWCSの上方に釣り糸を張り鳥害を防止する。4給与の際、電気牧柵等を利用し牛 の採食行動を制限し、牛同士の争いやイネWCSへのふん尿排せつを避ける(図1)。イネWCSが、コンバイン型収穫機(以下C型と記載)により調製されたロールの場合はシートの上で開封・解体し放射状に分割して給与する。フレール型収穫機(以下F型と記載)の場合は帯状に転動解体して給与する(図1)。 5 イネWCSに不足する蛋白成分を補うため、圃場に大麦牧草等を栽培して補助飼料として放牧採食させる。牧草の低生育時には大豆粕等の蛋白質含量の高い補助 飼料を100g/頭・日程度給与する。6イネWCSの開封個数・開封間隔は、飼料供給量の目安をC型1ロール12頭・日、F型1ロール9頭・日分として、 残飼、牧草の生育状態、牛群頭数から判断する。
  • 電気牧柵等を使いイネWCSへの採食行動を制限することにより、採食行動を制限しない場合と比べて、残飼は30%から約10%に減少する(図2)。
  • C型イネWCSを、圃場から13km離れた牛舎へ運搬給与し堆肥を圃場に運搬散布する経費は、100ロール(1ha相当)あ たり約357千円であり、飼料イネの生産利用に関わる経費全体の約32%を占める。収穫圃場周囲で採食行動を制限してイネWCSを給与した場合の経費は約 178千円であり、牛舎給与に比べ50%減少する(図3)。圃場・牛舎間の距離が5kmの場合、経費は47%削減される。
  • 冬季にイネWCS主体の飼料で放牧地飼養した牛は、営農試験地ではすべて初放牧牛であるが、放牧馴致が円滑にはかれ繁殖牛の栄養状態が良好であり、出生子牛の生時体重は30kg以上と高く、発情回帰及び受胎率も高く、次産までの分娩間隔は365日以下である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 稲発酵粗飼料の省力的利用、通年放牧の開発、及び畜産経営の発展に活用できる。
  • 関東など冬季降水量が少なく排水性の良い土壌条件下で適応可能である。

具体的データ

図1 イネWCSの放牧地利用のポイント:電気牧柵等を利用して飼料への糞尿排せつを避ける

 

図2 イネWCSの放牧利用による残飼 図3 稲発酵粗飼料の放牧利用の経済性

 

表1 イネWCSの放牧地給与牛の繁殖成績

その他

  • 研究課題名:関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立
  • 課題ID:212-b
  • 予算区分:関東飼料イネ、えさプロ
  • 研究期間:2006~2007年度
  • 研究担当者:千田雅之、菅谷新一(菅原農園)、佐藤宏弥(ドリームファーム)
  • 発表論文等:千田(2007)飼料増産ホットニュース、30:2-4