イネ萎縮ウイルスは媒介昆虫での経卵伝染で6年間維持される

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要約

イネ萎縮ウイルスを保毒したツマグロヨコバイを親として累代飼育すると、6年間、54世代に亘って経卵伝染する。本分離株感染イネは親株感染イネよりも萎縮し、ウイルス濃度が低い点で性質に変異が生じているが、イネへの感染性は維持している。

  • キーワード:イネ萎縮ウイルス、媒介昆虫、経卵伝染、親和性
  • 担当:中央農研・昆虫等媒介病害研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8481
  • 区分:共通基盤・病害虫(病害)
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

イネ萎縮ウイルスは媒介昆虫ツマグロヨコバイで増殖した後にイネに感染する植物の病原ウイルスである。本ウイルスが生理メカニズ ムの異なる植物と昆虫(無脊椎動物)の両生物種で増殖できる機構を解明できれば、ウイルスの伝染環を遮断するために必要な分子情報が得られるものと期待さ れる。本ウイルスの媒介昆虫への感染経路には、媒介昆虫が感染植物を吸汁することによる獲得吸汁や保毒虫を経由した経卵伝染が知られている。そこで、本ウ イルスを保毒したツマグロヨコバイを長期間飼育し、ウイルスと媒介虫との親和性について解明する。

成果の内容・特徴

  • イネ萎縮ウイルス(元株、O系統)を保毒した雌雄のツマグロヨコバイを餌としてのイネ苗を約10日毎に交換して累代飼育することで、本ウイルスを媒介虫のみで維持できる。
  • 6年間、54代飼育した後代の虫からは電顕により径約70 nmの球状をしたイネ萎縮ウイルス(分離株I)が確認でき、経卵伝染率は100%である(表1)。
  • 分離株Iを保毒したツマグロヨコバイを用いて健全イネ苗に接種すると、白斑の出現や萎縮症状など、イネ萎縮病特有の病徴が発現する。発病の程度はO系統と比べると激しく、強毒系統(S)よりも軽い(図1)。
  • I分離株の感染イネ組織内濃度はO系統の約1/2であり、感染イネ苗からのウイルス獲得率も低い(表2)。
  • 上記結果から、イネを介さず媒介虫のみでイネ萎縮ウイルスを維持することにより、媒介虫との高親和性等、特定の性質を持つ系統が生じる。

成果の活用面・留意点

  • 分離株Iが植物体を経ることなく、昆虫の体内のみで長期間維持されたということは、イネ萎縮ウイルスとツマグロヨコバイとの親和性を解明する上で貴重な情報となる。
  • 病原性を維持したイネ萎縮ウイルスが経卵伝染によって虫のみで長期間維持されることは本病の発生要因の検討に必要な情報となる。

具体的データ

表1 ツマグロヨコバイにおけるイネ萎縮ウイルス分離株Iの経卵伝染率 図1 各系統感染イネ株の症状

 

表2 イネ萎縮ウイルス感染イネからのツマグロヨコバイによるウイルスの獲得率

 

その他

  • 研究課題名:病原ウイルス等の昆虫媒介機構の解明と防除技術の開発
  • 課題ID:214-e
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2000-2007年度
  • 研究担当者:大村敏博、Wei Taiyun (海外特別研究員)、萩原恭二(特別研究員)
  • 発表論文等:Honda, K., Wei, T., Hagiwara, K., Higashi, T., Kimura, I., Akutsu, K. and Omura, T. (2007). Phytopathology, 97, 712-716.