放牧導入による肉用牛繁殖経営の改善と飼料自給率向上の条件

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要約

肉用牛経営計画モデルを用いて放牧導入の効果を試算し、繁殖経営の改善には人工哺育技術等との併用が重要であること、飼料自給率の向上には放牧導入とともに農地の利用集積が必要であること等の結果を得た。

  • キーワード:肉用牛、経営計画モデル、放牧、人工哺育、飼料自給率
  • 担当:中央農研・関東飼料イネ研究チーム
  • 連絡先:電話029-838-8481
  • 区分:畜産草地
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

農地の活用や畜産経営の改善、飼料自給率の向上をはかるため、農地の放牧利用が期待され、その効果の解明が求められている。そこで、北関東水田地帯の繁殖経営事例の飼料生産や放牧、家畜飼養に関わる技術係数をもとに繁殖経営計画モデルを策定し、放牧導入による経営改善等の効果と効果を発揮するための条件を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 放牧導入は繁殖経営の省力化やコスト低減・所得増加に効果はあるが、現行の放牧方法(季節放牧、妊娠牛の放牧)では、それらの効果は10%程度にとどまる(表1の13)。人工哺育技術と併用して早期に母子を分離し、すべての繁殖牛を季節放牧することにより、夏季労働の激減による農作業時間の顕著な減少と労働生産性の向上が図れる(図1、表1の26)。
  • 飼料基盤が小さい経営への放牧導入や人工哺育技術の併用により放牧対象牛が拡大された場合、放牧利用が優先され、多額の機械投資を必要とする牧草生産を中止し不足する飼料を購入した方が経済的に有利となり、飼料自給率は低下する(表1の246)。放牧を導入し飼料自給率を向上するには、農地の利用集積が欠かせない(5)。
  • 転作助成が2万円削減された場合、放牧を実施していなければ、稲作を拡大し牧草生産を中止した方が有利なため、飼料自給率は低下し、未利用地は増加する(表2の7)。放牧を導入していれば、子牛生産は稲作と同等の経済性を確保できるため、飼養頭数が維持され、また、労働面から牧草生産の継続が可能であり、飼料自給率は維持される(8)。
  • 飼料価格が上昇した場合、飼養頭数を減らし、1頭あたり自給飼料の比率を高めることが経済的に有利となる。飼料価格が上昇した場合でも、利用可能な農地面積を増やせば、飼養頭数を減らさず所得を増やすことが可能である(表3)。飼料需給が不安定となる状況下では、増頭よりも飼料基盤の集積、或いは飼料基盤の拡大に併せた増頭が、経営発展、飼料自給率向上に重要である。

成果の活用面・留意点

  • 放牧を活用した繁殖経営の発展や飼料自給率向上の技術指導に活用できる。
  • 北関東で1筆10~20aの小区画分散圃場を対象に、稲作や飼料生産、放牧を行う事例に基づく試算結果である。

具体的データ

表1 放牧導入による繁殖経営の変化

 

図1 放牧導入による月旬別労働の変化表3 飼料価格と収益性の変化

 

表2 転作助成の削減による経営変化

その他

  • 研究課題名:放牧技術の普及に向けた家畜生産技術の高度化と多様な飼料資源を活用した放牧技術の開発
  • 課題ID:212-d
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:千田雅之、宮路広武