フライトミルとスピードガンを組み合わせて昆虫の飛翔可能距離を推定する

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要約

スピードガンを用いて、野外における自由飛翔に近い状態で昆虫の飛翔時の速度を計測し、その飛翔速度にフライトミルで得られた飛翔時間をかけあわせることによって昆虫の潜在的な最大飛翔可能距離が推定できる。

  • キーワード:スピードガン、フライトミル、飛翔速度、飛翔時間、距離、ホソヘリカメムシ
  • 担当:中央農研・総合的害虫管理研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8939
  • 区分:共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

フライトミルを用いた昆虫の飛翔能力測定では、供試虫をフライトミルのローターに固定することによって生じる物理的・行動的な負荷が飛翔距離の算出に及ぼす影響を除去することができない。そこで、飛翔速度を野外における自由飛翔に近い状態で直接計測できれば、その飛翔速度にフライトミルで得られた飛翔時間をかけあわせることによって潜在的な最大飛翔可能距離の推定が可能となる。さらに、この方法を用いれば、フライトミルの構造上の問題に起因する計測誤差を大幅に減らすことが期待される。

成果の内容・特徴

  • ダイズの重要害虫ホソヘリカメムシRiptortus pedestris (Fabricius)、イチモンジカメムシPiezodorus hybneri (Gmelin)、イネの重要害虫クモヘリカメムシLeptocorisa chinensis Dallasを計測対象として、スピードガン(The STALKER PRO - Professional Sports Rader, Applied Concepts, Inc., TX, USA)を用いた自由飛翔時の最高速度を直接計測すると、ホソヘリカメムシが最も早く飛び、雄は平均8.0 km/h、最も遅かったのはクモヘリカメムシ雄で5.4 km/h、イチモンジカメムシは2種の中間的速度を示す(図1:種間に有意差あり(P<0.001)、雌雄間に有意差なし;二元配置分散分析)。
  • フライトミルによるクモヘリカメムシとホソヘリカメムシの延べ飛翔時間はクモヘリカメムシのほうが長い(図2:種間に有意差あり(P<0.001)、雌雄間に有意差なし;二元配置分散分析)。
  • スピードガンとフライトミルでの測定結果から、ホソヘリカメムシの日当たり最大飛翔距離は雄で3.1km、雌で4.6km、またクモヘリカメムシは雄で24.2km、雌で29.4kmと推定される。
  • フライトミルの回転数のみによって日当たり飛翔距離を推定すると、ホソヘリカメムシ雄で1.3km、雌で1.7km、またクモヘリカメムシ雄は11.6km、雌は13.7kmとなる。この結果から、従来のフライトミルだけで得られた飛翔距離は実際の飛翔距離よりも過小推定されている可能性が高い。
  • 本方法は、自力飛翔を行う昆虫全種類に適用可能である。

成果の活用面・留意点

  • スピードガンは電磁波のドップラー効果を利用しており、電磁波を発生する機器があると、その影響を受けて正確な計測ができない。このため、室内で計測する場合、蛍光灯やエアコン等の電波発生源となる機器類の電源を切っておく必要がある。
  • 昆虫には、温度によって飛翔速度が変化するタイプと広い温度範囲にわたって比較的一定の速度で飛ぶタイプが存在するため、飛翔距離推定に先立って、計測対象昆虫の温度と飛翔速度との関係を把握しておかねばならない。
  • 本方法で得られる数値は、潜在的な最大飛翔可能距離であり、野外における実際の飛翔距離との直接的な比較はできない。

具体的データ

図1 スピードガンで直接計測したホソヘリカメムシ、クモヘリカメムシ、イチモンジカメムシの最高飛翔速度(25°C)。図中の数値は個体数を、縦棒は標準誤差を示す。

図2 25°Cにおけるフライトミルでのホソヘリカメムシとクモヘリカメムシの飛翔時間。縦棒は標準誤差を示す。計測時間は22時間。

その他

  • 研究課題名:土着天敵等を活用した虫害抑制技術の開発
  • 課題ID:214-f
  • 予算区分:委託プロ(生物機能)、基盤研究
  • 研究期間:2004~2008年度
  • 研究担当者:守屋成一、角田 隆(長崎大)
  • 発表論文等:Tsunoda and Moriya (2008): Appl. Entomol. Zool. 43: 451-456.