イネ萎縮ウイルスの感染応答に関わる宿主因子の単離とその機能
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要約
イネ品種「日本晴」の内在性レトロトランスポゾンTos17の挿入による遺伝子破壊系統群の中にイネ萎縮ウイルス(RDV)に対する感受性喪失系統が認められる。RIM1(RICE DWARF VIRUS MULTIPLICATION 1)と命名した原因遺伝子はRDVの感染・増殖を特異的にサポートする。
- キーワード:イネ萎縮ウイルス、感受性喪失、宿主因子
- 担当:中央農研・昆虫等媒介病害研究チーム
- 連絡先:電話029-838-8932
- 区分:共通基盤・病害虫(病害)
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
ウイルスゲノムには限られた遺伝情報しかコードされておらず、ウイルスの感染及び複製において多数の宿主因子を利用しているものと想定される。そのため、ウイルス感染をサポートする宿主植物のタンパク質に関する研究は、ウイルスの感染・増殖機構の解明のために極めて重要である。しかし、宿主ゲノムがコードするタンパク質は多種多様であり、そのような知見はきわめて乏しい。
そこで、イネ品種「日本晴」の内在性レトロトランスポゾンTos17による遺伝子破壊系統(ミュータントパネル)を用いて、イネウイルスの感染・増殖に関与する遺伝子を単離し、その機能を明らかにする。
成果の内容・特徴
- イネ品種「日本晴」の内在性レトロトランスポゾンTos17の挿入によって得られた約5,500の遺伝子破壊系統群(ミュータントパネル)からイネ萎縮ウイルス(RDV)に対して感受性が喪失した1系統が得られる(図1)。
- 本感受性喪失に関与する原因遺伝子のゲノム領域を特定し、RICE DWARF VIRUS MULTIPLICATION 1(RIM1)と命名する。RIM1遺伝子はイネ第3染色体上に存在し、6つのエキソンから構成されている(図2)。
- 本遺伝子破壊系統は、RDVを伝搬するツマグロヨコバイに対する抵抗性ではない(表1)。
- 本遺伝子破壊系統は、RDVと同様にツマグロヨコバイより伝搬されるイネ黄葉ウイルス(RTYV)や複数のウンカによって媒介されるイネ縞葉枯ウイルス(RSV)には感受性であり、RIM1はRDVに特異的に作用する宿主タンパク質であると考えられる(図3)。
- 本遺伝子破壊系統にRIM1遺伝子を含むゲノミックDNA断片を形質転換したイネはRDVに対する感受性が回復する。
成果の活用面・留意点
- 本変異系統は原品種「日本晴」と比較して生育がやや劣ることから、RIM1はイネ自身の生育に必須な遺伝子であると考えられる。
具体的データ
その他
- 研究課題名:媒介昆虫-宿主植物間シャトルウイルス感染等における分子応答機構
- 課題ID:214-e
- 予算区分:基盤、新技術・新分野創出
- 研究期間:2006-2011年度
- 研究担当者:大村敏博、清水巧(特別研究員)
- 発表論文等:1)Yoshii, M. et al. (2009). Plant Journal 57:615-625
2) 大村ら「イネ萎縮ウイルスの感染に必須なイネ遺伝子」特開2007-08940