後継者不在の家族経営における第三者への事業継承に当たってのポイント

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

家族以外の第三者への事業継承を進める上では、1)移譲者と継承者の事前のマッチングによる適性・相性の確認、2)事業を確実に受け渡すという意思、3)短期間でのノウハウの伝達、4)文書化等を通した不安感の解消、5)関係機関の介在・支援が必要である。

  • キーワード:第三者継承、事業継承、マッチング、新規就農者、後継者不在、離農
  • 担当:中央農研・農業経営研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838- 8481
  • 区分:共通基盤・経営、関東東海北陸農業・経営
  • 分類:行政・普及

背景・ねらい

今日、専業的な農業経営でも後継者が不在となる経営が多いが、その場合、離農によりそれまで蓄積された資産および技術・ノウハウが散逸・消失することは、社会的に見て大きな損失である。一方、農業への参入を希望する若い意欲のある新規就農者においては、早期の経営の安定化が課題となっている。そのため、後継者不在の経営(以下、委譲者)の有形資産やノウハウを家族以外の者(新規就農者)に事業継承することに取り組んでいる多様な事例(以下、第三者継承)を分析し、その推進に当たってのポイントを提示する。

成果の内容・特徴

  • 第三者継承を進める上では、基本的に、研修後移譲方式と継承法人設立による移譲方式がある(図)。
  • 成功事例においては、移譲者は事業を確実に受け渡すという意思を持っている。また、継承前における移譲する有形資産の評価額の調整や、規模拡大に向けた継承後の農地の斡旋など、関係機関・組織による継承者への支援が行われている。一方、失敗事例では、移譲者と継承者との信頼関係が構築できておらず、また、継承者の経営者としての能力が不足している場合もある(表)。
  • 研修後移譲方式では、比較的短期間に経営資源を受け渡すことから、覚え書きや契約書の作成による継承者の不安感の解消と両者の信頼の確保や、作業記録および共同作業等による継承者への効率的な作業ノウハウの伝達、さらに、継承者が地域から認知されるための働きかけが求められる。また、一つの経営において研修も含め移譲者と継承者との併走期間が生じることから、事前に移譲者と継承者の適性・相性を確認するためのマッチングを実施し、両者が納得した上で継承を開始するとともに、その間の信頼関係の維持に向けた関係機関の介在が必要となる。
  • 継承法人設立による移譲方式では、権限や配当が出資額に比例しない合同会社の適用や、継承者との共同出資による株式会社が活用できる。法人設立に当たっては、第三者に事業を継承することについて事前に親族に説明し、理解を得るとともに、継承者の将来の経営権を保証するなど、円滑な経営者交代が可能となるような項目を定款に記載することが有効である。

成果の活用面・留意点

  • 第三者継承の進め方等の詳細なマニュアルは、2008年4月から開始された日本版ファームオン事業(http://www.nca.or.jp/Be-farmer/farmon/index.php を参照)において、「第三者への農業経営継承マニュアル-経営資産の散逸を防ぎ新たな人材につなげよう-」および「第三者への農業経営継承事例集」(全国農業会議所・新規就農相談センター。2008 年11月。課題担当者が執筆)として公表・活用されているので、参考とされたい。

具体的データ

図 第三者継承方式のタイプ

表 第三者継承事例の特徴と成立・不成立のポイント

その他

  • 研究課題名:関東・東海・北陸地域における個別経営体の総合的経営管理手法及び多様な主体間連携による地域活性化手法の開発
  • 課題ID:211-a.3
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:梅本雅、山本淳子
  • 発表論文等:1)山本、梅本(2008)農業経営研究、46(1):101-106