赤かび病菌のDON産生はスクロースおよびフルクトオリゴ糖により強く誘導される

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要約

赤かび病菌(Fusarium graminearum s. str.)を、コムギ穂組織で開花期以降に急激に増加するスクロースおよびフルクトオリゴ糖を炭素源として液体培養すると、デオキシニバレノール(DON)合成遺伝子の発現が誘導され、DON産生量が著しく増加する。

  • キーワード:ムギ、赤かび病菌、Fusarium graminearum s. str.、デオキシニバレノール(DON)
  • 担当:中央農研・特命チーム員、九州沖縄農研・赤かび病研究チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 区分:共通基盤・病害虫(病害)
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

赤かび病は、ムギ類の収量を大きく低下させる重要病害である。さらに、人畜に毒性を示すデオキシニバレノール(DON)を初めとするマイコトキシンを作物の可食部に蓄積するために世界的に大きな問題となっている。しかし、赤かび病菌(F. graminearum)のDON産生誘導条件は全く明らかとなっていない。近年、トウモロコシ赤かび病菌(F. verticillioides)において、感染トウモロコシ粒に含まれるアミロペクチンによってフモニシン産生が誘導されることが報告されている。一方、コムギでは赤かび病菌の感染・増殖好適期である開花期以降の穂組織で可溶性糖類が急激に増加することが明らかにされている。そこで、コムギ穂組織に含まれる炭素源に対する赤かび病菌のDON産生誘導条件について解析する。

成果の内容・特徴

  • 日本各地から分離されたDON産生型赤かび病菌(F. graminearum s. str.)11菌株を供試し、炭素源を変えた液体培地で培養すると、いずれの菌株も同様の挙動を示す。8日後に菌体重を比較すると、フルクタンを炭素源として用いた場合以外は大きく変わらない(表1)。
  • 一方、培養濾液中のDON産生量を比較すると、スクロースおよびフルクトオリゴ糖(1-ケストース、ニストース)を炭素源として赤かび病菌を培養した条件で、DON産生量が著しく増加する(表1)。
  • グルコースを炭素源として赤かび病菌を培養すると、菌体重が増加する一方、DONはほとんど産生されない。スクロースを炭素源として培養した赤かび病菌は、菌体量の増加とともに、DON合成遺伝子(Tri5, Tri4)の発現量が増加しDONの産生が強く誘導される(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 炭素源としてスクロースを含む液体培地を利用することで、DON産生阻害剤のスクリーニング等を効率的に行うことが可能となり、DON蓄積抑制技術の開発に寄与できる。
  • 他の赤かび病菌(F. asiaticum, F. culmorum等 )では、培養液中に含まれる炭素源の違いによるマイコトキシン産生量について別途検討する必要がある。

具体的データ

表1 培養液に加える炭素源の違いが赤かび病菌の菌体重及びDON産生量に与える影響

図1 赤かび病菌をスクロース又はグルコースを炭素源として培養した場合の菌体重(■)とDON産生量(□)(A)及びDON合成遺伝子(Tri5, Tri4)発現量(B)の経時変化

その他

  • 研究課題名:コムギ赤かび病における病原菌の感染・増殖過程と気象要因との相互関係の解析(赤かび病菌の毒素産生を誘導するコムギ成分の同定と機能解析)
  • 課題ID:323-a
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:川上 顕、焦 鋒、小泉信三(東北研)、中島 隆(九沖研)
  • 発表論文等:Jiao F., Kawakami A., Nakajima T. (2008) FEMS Microbiol. Lett. 285:212-219