イネの白未熟粒関連QTLと高温登熟応答性遺伝子の染色体座乗位置

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要約

登熟期の高温によって発現量が変動する遺伝子のうち、GBSSIBEIIbPPDKB、α-アミラーゼ等の一部のデンプン代謝関連遺伝子は、白未熟粒の発生程度を制御する量的形質遺伝子座(QTL)の近傍に存在し、高温による白未熟粒発生程度を制御する遺伝子である可能性が高い。

  • キーワード:イネ、高温登熟、遺伝子発現、白未熟粒、QTL
  • 担当:中央農研・稲収量性研究北陸サブチーム
  • 代表連絡先:電話025-526-3245
  • 区分:作物、関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

イネの高温登熟障害による白未熟粒の発生は全国的に問題となっており、高温耐性を付与する遺伝子座の特定を目指して、量的形質遺伝子座(QTL)解析が行われており、その原因遺伝子の同定が期待されている。一方、デンプンおよび貯蔵タンパク質の蓄積に関与する登熟代謝関連遺伝子の高温に対する発現の変化が解析され、発現量が増加もしくは減少する遺伝子の存在が明らかとなっている(発表論文1)が、それらの遺伝子と白未熟粒の発生程度との関連性は不明である。 そこで、白未熟粒の発生程度を制御するQTLと上記の登熟代謝関連遺伝子の両方について、同一の染色体物理地図上に位置づけることによって、高温耐性に関与するQTLの近傍に存在する候補遺伝子情報を提供する。

成果の内容・特徴

  • イネ遺伝子データベース(Gramene; www.gramene.org)情報を用いて、白未熟粒の発生程度を制御するQTL 33個および種子登熟代謝に関連する遺伝子79個をマッピングしたところ、前者は第11染色体を除く11本、後者は12本すべての染色体に散在して座乗する(発表論文2)。
  • 白未熟粒関連QTLの近傍に登熟代謝関連遺伝子が存在する場合が多く、高温によって発現量が変動する遺伝子もみられる。これらの遺伝子は高温登熟による白未熟粒の発生に関与している可能性がある。特に、高温で発現量が減少するデンプン粒結合型デンプン合成酵素(GBSSI)、デンプン分枝酵素(BEIIb)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDKB)および発現量が増加するα-アミラーゼ(Amy3D、Amy3E)遺伝子は、白未熟関連QTLの近傍に存在し(図1)、それぞれ変異イネおよび強制発現イネの玄米が白未熟粒になることが知られており、高温による白未熟粒発生程度を制御する遺伝子である可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • 高温登熟による白未熟粒の発生程度に関与するQTLが検出された際に、その染色体領域に候補となる遺伝子が存在するか調べることができる。
  • 図1では、デンプンおよび貯蔵タンパク質の蓄積と関係ない遺伝子は提示されていない。また、発現量の変化を伴わずに白未熟粒の発生に関与している遺伝子も存在する可能性がある。
  • 図1に記載されているQTLおよび遺伝子の詳細な座乗位置およびその他の染色体情報については、発表論文2を参照されたい。

具体的データ

図1 登熟代謝関連遺伝子および白未熟粒関連QTLの染色体座乗位置

その他

  • 研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
  • 課題ID:221-c
  • 予算区分:基盤、実用遺伝子、委託プロ(新ゲノム)
  • 研究期間:2006~2008年度
  • 研究担当者:山川博幹、蛯谷武志(富山県農総セ)、寺尾富夫
  • 発表論文等:1) Yamakawa et al. (2007) Plant Physiol. 144 (1): 258-277
                       2) Yamakawa et al. (2008) Breed. Sci. 58 (3): 337-343