牛糞堆肥の早期散布や連用後畑裸地化は水田からの浸透窒素流出を増大させる

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要約

牛糞堆肥の多量連用や散布から入水までの期間が長い早期散布では、窒素の浸透流出リスクが高まる。収穫後から堆肥散布までの浸透窒素流出量はイネ栽培期間を上回らないが、休耕・無潅漑とすると、過去の堆肥の施用量に応じて窒素の浸透流出量が増大する。

  • キーワード:ライシメータ、牛糞堆肥、飼料イネ、水田、窒素の浸透流出
  • 担当:中央農研・関東飼料イネ研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8817
  • 区分:関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、共通基盤・総合研究(飼料イネ)
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

飼料イネ栽培では、食用米栽培水田よりも求められる牛糞堆肥の散布量が多い。牛糞堆肥連用量の増加や、牛糞堆肥を連用した水田でイネの作付けが継続されない場合に、浸透水経由で流出する窒素量が増加することが懸念される。そこで、小型ライシメータを用いて、飼料イネ水田における通年およびイネを作付けせず畑裸地とした年に作土から浸透流出する窒素に対する牛糞堆肥連用量の影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 水田土壌作土からの窒素の浸透流出パターンは年により異なる。特に、牛糞堆肥散布から入水までの期間に浸透流出する窒素量の年次変動が大きく、この期間が長い年では大きな窒素の浸透流出が起こる場合がある(図1)。
  • 牛糞堆肥散布から入水までの期間に浸透流出する窒素量は同期間の降水量の増加に伴い増大し、牛糞堆肥連用量が多いほど浸透水経由で流出する窒素量が大きい(図2)。
  • 牛糞堆肥を連用すると堆肥散布~入水または飼料イネ栽培期間(入水~収穫)に浸透流出する窒素量が増える。イネの収穫後裸地となる冬期(収穫~堆肥散布前)に浸透流出する窒素量は牛糞堆肥無施用と2kg/m2連用で同程度となり、6kg/m2連用で増加する。冬期の浸透流出窒素量は飼料イネ栽培期間と同程度かそれ以下である(図3)。
  • 牛糞堆肥2kg/m2連用は牛糞堆肥による投入窒素量が飼料イネによる窒素吸収量を大きく上回るが、窒素の浸透流出量は降水と灌漑水による窒素供給量と同程度となる。しかし、牛糞堆肥6kg/m2を連用すると窒素の浄化機能が期待される水田においても、浸透水経由で窒素が流出する(表1)。
  • 牛糞堆肥を連用した水田において、イネの作付けをやめ無堆肥・畑裸地で管理すると、過去の牛糞堆肥施用量に応じて窒素の浸透流出量が増大する(図1、表1)。

成果の活用面・留意点

  • 中央農研(茨城県つくば市)で行った試験であり、気象・土壌の類似した地域において、牛糞堆肥を用いて飼料イネを栽培する際の環境影響評価の指針となる。
  • 牛糞堆肥の成分は乾物率0.61±0.06、乾物中N: 2.0±0.2%(うちKCL抽出性NO3-N: 1094±298mg/kg、NH4-N:564±354mg/kg)、K: 3.0±0.3%、P:1.6±0.2%、CN比は21であり、副資材におがくずを含む。
  • 灰色低地土水田(試験開始時のリン酸緩衝液抽出有機態窒素93mg/kg)の作土を詰めたライシメータ(0.5×1.0×0.5m(高),土の厚さ0.35m)を用いており、浸透水が心土を通過する実際の水田の窒素の浸透流出量は本試験より小さくなると考えられる。
  • 化学肥料は無施用で栽培した結果である。

具体的データ

図1 浸透水経由で作土から流出した窒素量の累積値の推移

図2 堆肥散布から入水までの降水量と作土から浸透流出した窒素量の関係

図3 作土からの時期別浸透窒素流出量

表1 2003 ~ 2007 年の年間 * 供給窒素量および持ち出し窒素量

その他

  • 研究課題名:関東地域における飼料イネの資源循環型生産・利用システムの確立
  • 中課題整理番号:212b.3
  • 予算区分:基盤、委託プロ(えさ)
  • 研究期間:2003~2008年度
  • 研究担当者:草佳那子、阿部薫(農環研)、石川哲也、三枝貴代、石田元彦、中西直人