イネいもち病抵抗性遺伝子Pit保有品種を同定できるDNAマーカー

要約

イネいもち病抵抗性遺伝子Pitの抵抗性に最も関与する配列に構築したDNAマーカーは、日本型、インド型品種のPitを保有する栽培イネ品種の同定に利用できる。

  • キーワード:イネいもち病、抵抗性遺伝子、Pit、DNAマーカー
  • 担当:中央農研・病害抵抗性研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8940
  • 区分:作物、共通基盤・病害虫(病害)
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

イネいもち病抵抗性育種においては、親品種や育成系統が保有する抵抗性遺伝子の種類を同定する必要がある。抵抗性遺伝子の種類を同定するためには、複数種類のいもち病菌を用いた接種試験が必要だが、DNAマーカーで遺伝子の種類を検出できれば、検定作業の煩雑さを解消できる。しかし、イネのゲノムに存在する500個を超える抵抗性遺伝子は類似した塩基配列を持つため、目的の遺伝子を確実に同定するDNAマーカーの作出は容易でなく、また、同一アリルの抵抗性遺伝子を持つ品種間でも、遺伝子周辺の塩基配列には多型が存在し、DNAマーカーの不安定要因となる。そこで、一例として、イネいもち病抵抗性遺伝子の一つであるPitを単離し、抵抗性発現機構を解明することにより、抵抗性に関与している領域を確実に検出するDNAマーカーを開発し、その有効性を検証する。

成果の内容・特徴

  • PitはNBS-LRR型タンパク質をコードする遺伝子で、抵抗性の「K59」型アリルおよび罹病性の「日本晴」型アリルのコード領域は、相同性が高く、類似した機能を持つ。しかしながら、前者では、転移因子配列(LTR型レトロトランスポゾン)の挿入により、NBS-LRR型タンパク質の発現が上昇し、Pit(抵抗性型)の表現型を示すのに対し、後者では罹病性になる(図1)。この結果をふまえ、抵抗性に関与している転移因子配列にPit遺伝子検出用のDNAマーカーを設計している(図1、表1)。
  • 「K59」型アリル上流の転移因子配列を検出するDNAマーカー(tK59)を用いると、日本型、インド型品種を含む世界のイネコアコレクション(農業生物資源研究所)68品種のうち、5品種(Asu、Deng Pao Zhai、Neang Menh、Neang Phtong、Padi Kuning)でバンドが検出される(表1、図2)。
  • これら5品種におけるPitの転写量は「K59」と同程度であり、いもち病菌に対する各品種の反応パターンも「K59」と同一である(表2)。また、Pit遺伝子の周辺領域の配列もきわめて類似していることから、これら5品種の「K59」型アリルは「K59」と同一の品種に由来すると考えられる。従って、本方法により設計されたtK59マーカーは、「K59」と同一の品種に由来する「K59」型アリルを効率的に検出できる。

成果の活用面・留意点

  • 現時点で抵抗性アリルとして同定されているのは「K59」型アリルだけだが、これとは異なる分子機構によって抵抗性を示す新規アリルが見つかった場合には、本マーカーは適用できない。
  • tN11とtRn1でPCR条件反応を行い、バンドが増幅されないときはtN11とtRn2を用いる。
  • PCR条件については、発表論文を参照されたい。
  • いもち病抵抗性同質遺伝子系統の育成に活用できる。
  • 本マーカーの使用に許諾等の使用制限はない。

具体的データ

Pit遺伝子の抵抗性獲得機構

tK59マーカーのプライマー配列

tK59マーカーを用いた世界のイネコアコレクション(生物研)における転移因子の挿入の確認

tK59マーカーで検出された5品種のいもち病菌に対する反応

その他

  • 研究課題名:食用稲における病害抵抗性の強化のための遺伝子単離と機作の解明
  • 中課題整理番号:221f
  • 予算区分:基盤、科研費
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:林敬子、吉田均、安田伸子、藤田佳克、小泉信三
  • 発表論文等:1)Hayashi, K. et al. (2009) Plant J. 57(3):413-425
                       2)Hayashi, K. et al. (2010) Theor. Appl. Genet. 121(7):1357-1367